治安維持への協力から始める

 ただ、防衛装備をこのように利用しようと思っても、推進する体制が国内で整っていません。オーストラリアが導入する次期潜水艦の受注を逃したのは、この表れの1つです。そこで私たちは①安全保障産業の範囲をこれまでより広く捉え直すとともに、②長期・中期・短期に分けて目標を定め、③目標を実現するための五つの組織の創設を提言しました。

これまでより「広い」安全保障産業とは?

佐藤:これまで防衛産業と言えば、三菱重工業やIHIをイメージしたと思います。しかし、技術が進歩し、こうした企業だけが防衛産業とは言えなくなりました。現在はAI(人工知能)の技術を開発するベンチャー企業も、防衛装備のメンテナンスを担当する企業も、民間警備会社も防衛産業の一翼を担います。なので、私たちは防衛産業という呼び方をやめ、安全保障産業と呼ぶことにしました。これも国際的なトレンドに沿った意識転換を促すものです。

 民生の素材メーカーなども安全保障産業の一角を占めるようになります。民生技術と防衛技術の垣根がどんどん低くなっています。例えば、航空機に使う強度の高い素材は、防弾・防刃素材としても有効です。つまり、民生技術と軍事技術の境界が曖昧になったことを前提として、産業政策と外交・安全保障政策の連動や連携を高めていくべきということです。

目標は3段階で設定したのですね。

佐藤:はい。オーストラリアの潜水艦のような案件を受注するのは長期の目標とします。

 まずはできることから。短期目標として、防衛装備の共同運用による派遣協力が考えられます。例えば沖縄に海難救助艇などを配備し、これをフィリピンに回航させ、同国の沿岸警備や洋上監視に協力することが考えられます。同国は過激派思想を持って中東から帰国する人の流入を防いだり、犯罪組織の活動を牽制したりするため、沿岸警備や洋上監視に力を入れています。これに協力する。海難救助艇を輸出するには時間がかかりますが、こうした取り組みなら短期間で実現できます。

 中期の目標としては、災害救援が想定できます。例えば離島間の物資輸送に日本の防衛装備を活用する。こうした短期、中期の目標を達成していくことで日本製防衛装備の認知度を高めることができます。

内閣官房に司令塔を

防衛装備を外交ツールとして利用できるようにするため5つの機関を設置するよう提言していますね。それぞれ、どんな機能を持つのでしょう。

佐藤:第1として、内閣官房に「司令塔」機能を設置するよう求めています。安全保障産業をめぐる政策の立案・調整、実行の監視をするための機関です。

 内閣官房に置くのは、安全保障産業の保護・育成には多くの省庁が関わるからです。防衛省はもちろん、経済産業省、中小企業庁、財務省――。内閣官房に置くことで関係省庁を調整できるとともに、執行力を高めることが期待できます。

司令塔は、関連省庁から人を集めて構成するのですか。

佐藤:そうです。ただし、メンバーは官僚に限りません。民間からも登用を可能にすべきと思います。国家安全保障局のトップ、谷内正太郎局長は元外務事務次官ですが、民間人として登用されています。同様のことができるようにすることが重要でしょう。ただし、一民間人が政府組織にいきなり登用されても力は発揮できない。OBを含め、分厚い日本の官僚機構の力を活用する必要があります。