豪州が導入する潜水艦の受注を逸してから約2年が経った。防衛装備の海外移転案件が進む気配はない。日本製の防衛装備を日本安全保障にどう生かすべきなのか。そのため、どのような仕組みを構築するべきなのか。海洋安全保障戦略研究会が提言書をまとめた。佐藤丙午座長に聞いた。

(聞き手 森 永輔)

近く「国際秩序安定化のための『安全保障産業』活用施策」を発表するご予定です。この提言の趣旨は何でしょう。

佐藤:大きく2つあります。第1は防衛装備の海外移転を、日本周辺の安全保障環境の醸成に用いると共に、外交力を高めるツールとして利用できるようにすること。こうした流れは世界的に進んでいます。米トランプ政権も4月19日に通常兵器移転政策を改訂する方針を明らかにしました。武器の輸出を通じて同盟国との関係を強化し、米国の安全保障も高めていこうという方針です。具体的にはドローンの輸出規制を緩和しました。第2は、第1を実現すべく安全保障産業を保護・育成することです。

<span class="fontBold">佐藤 丙午(さとう・へいご)</span><br />拓殖大学国際学部教授。専門は安全保障論(軍備管理・軍縮)、国際関係論、米国政治。ジョージ・ワシントン大学大学院、一橋大学博士課程修了。元防衛庁防衛研究所主任研究官。論文に「通常兵器の軍備管理・軍縮」(『海外事情』)、「安全保障と公共性―その変化と進展―」(『国際安全保障』)、「防衛産業のグローバル化と安全保障」(『国際政治』)など。
佐藤 丙午(さとう・へいご)
拓殖大学国際学部教授。専門は安全保障論(軍備管理・軍縮)、国際関係論、米国政治。ジョージ・ワシントン大学大学院、一橋大学博士課程修了。元防衛庁防衛研究所主任研究官。論文に「通常兵器の軍備管理・軍縮」(『海外事情』)、「安全保障と公共性―その変化と進展―」(『国際安全保障』)、「防衛産業のグローバル化と安全保障」(『国際政治』)など。

安倍政権が2014年4月に閣議決定した「防衛装備移転三原則」は、防衛装備の海外移転を、他の国への影響力を高めるなど外交のツールとしての海外移転は認めていませんでした(関連記事「防衛装備移転三原則は絶妙のバランス」)。

佐藤:その通りです。防衛装備移転三原則は①平和貢献・国際協力に資する場合と、②我が国の安全保障に資する場合に、防衛装備の海外移転ができると定めました。

 防衛装備の海外移転を日本の安全保障に生かせるよう政策を転換したものです。これが閣議決定されるまで、武器輸出三原則等によって、武器輸出は原則として禁止されているとの理解が優勢でした。

 一方、防衛装備移転三原則は防衛装備の海外移転について、日本の安全保障に貢献する移転を認めていますが、外交のツールとして活用することは認めていません。私たちはこれを「認めよう」と提言しています。これまで日本は、自身の努力と日米安全保障条約を通じた米国との協力を2本柱に、日本の安全保障環境の安定を確保してきました。

 しかし、環境の変化を受け、インド太平洋地域の各国の政策を日本の利益に沿う方向へ誘導する必要が生じています。例えば、アラブ産の石油を日本へ運ぶためのシーレーンの安全をインドや東南アジア諸国との協力なしに維持することは難しい。これを実現する外交ツールとして防衛装備を利用できるようにするということです。

 日本製の技術や製品をインド太平洋諸国が運用するようになれば、その安定的な補給を絶やさないため、日本との関係に配慮するようになるでしょう。こうした環境を作ることで、日本の外交力を高め、日本の安全保障をより確実なものに近づけることが可能になります。

 インド太平洋諸国との友好関係を築く手段として、これまで日本はODA(政府開発援助)などいろいろな手段を利用してきました。こうした手段の一つに防衛装備の海外移転を加えようという話です。

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