家電メーカーの英ダイソンが美容家電に参入した。4月28日から同社の旗艦店「Dyson 表参道」で発売を始めたのは、ヘアドライヤー。小型のモーターをハンドル内部に収納し、空気をハンドル下部から吸入して、上部にある円筒形の送風口から勢いよく吐き出す構造だ。ダイソンの“羽根のない扇風機”を応用したようなデザインで、既存のドライヤーとは全く異なる。温風が熱くなり過ぎないようにセンサーを内蔵するなど、毛髪へのダメージを軽減する技術の開発に力を注いだ。

 新開発のヘアドライヤーの価格は4万5000円(税別)と非常に高価。開発・製造には1億ポンド(約160億円)近くを投じたという。「既存のダイソンの掃除機ユーザーではなく、新たな顧客を開拓する」と意気込む、創業者でチーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏に話を聞いた。

<b>ジェームズ・ダイソン(James Dyson)</b>氏 1947年5月生まれ。紙パックを使用せず吸引力が衰えないサイクロン掃除機を発明し、英国などで大ヒットする。その後、独自開発した小型のデジタルモーター技術を応用し、羽根がない扇風機「エアマルチプライアー」などにも製品カテゴリーを拡大。自ら設立した財団を通じてエンジニアの育成に力を注ぐほか、2011年からは母校である英王立芸術大学院(RCA)の学長(Provost)も務める。2007年に英エリザベス女王から「サー(Sir)」の称号を得た(写真:陶山勉、以下同)
ジェームズ・ダイソン(James Dyson)氏 1947年5月生まれ。紙パックを使用せず吸引力が衰えないサイクロン掃除機を発明し、英国などで大ヒットする。その後、独自開発した小型のデジタルモーター技術を応用し、羽根がない扇風機「エアマルチプライアー」などにも製品カテゴリーを拡大。自ら設立した財団を通じてエンジニアの育成に力を注ぐほか、2011年からは母校である英王立芸術大学院(RCA)の学長(Provost)も務める。2007年に英エリザベス女王から「サー(Sir)」の称号を得た(写真:陶山勉、以下同)

―― 初めてヘアドライヤーを発売しますが、見た目からして既存の製品とはデザインが全く異なります。ダイソンのヘアドライヤーは、何がすごいのでしょうか。

ジェームズ・ダイソン(以下ダイソン) まず、既存のヘアドライヤーが抱える最大の問題は、大きくて重たいモーターがハンドルの上に乗っかっていて、非常にバランスが悪いことです。そこで我々は、全く新しいモーターを開発することにしました。それが、このモーターです(写真でダイソン氏が右手に持っているモーター)。従来の一般的なヘアドライヤーのモーターよりも8倍程度の回転スピードがあり、非常に小型で重さは約半分。モーターをハンドルの中に入れることで、バランスがとても良くなりました。

 モーターの回転速度は毎分、最大11万回転。モーターに取り付けられた羽根の枚数を通常の11枚から13枚にすることで、モーターの中で発生するノイズが超音波になるようにし、人間の耳で不愉快なモーターのノイズを感じないようにしました。

 従来型のヘアドライヤーの場合、送風口に髪の毛を当てるなどして風が遮られると風量が減り、その分、風の温度がさらに高くなって毛髪にダメージを与える原因となりやすかった。一方、今回開発したヘアドライヤーでは、風量がほとんど減ることなく温度が上昇しすぎることもない。しかも、センサーが毎秒20回、風の温度を測定して高温になりすぎないようにコントロールします。

 ヘアドライヤーでは、風の温度の調整が極めて重要です。髪の毛を加熱しすぎてしまうと、水分が髪から出て行ってしまい、大きなダメージを与えてしまうからです。我々のヘアドライヤーでは、あらかじめ設定された3段階の温度の中からユーザーが好みの温度を選ぶと、センサーが常にその温度に調節し続けてくれる。温度を正確にコントロールできる、世界初のヘアドライヤーでしょう。

約1600kmの毛髪を世界から収集して実験

風を送り出す構造は、羽根がない扇風機(エアマルチプライヤー)と似ていますね。

ダイソン  そうですね。羽根がない扇風機の構造と、新開発のデジタルモーターのコンビネーションといってもよいでしょう。さらに、送風口の形状には、気流が乱れないようにも工夫を凝らしました。気流が乱れると、きれいにブローできませんから。

 このデザインに到達するまで、かなりの試作品を作りましたよ。その数は1000近くになったでしょうか。

 さらに、約1000マイル(約1600km)もの毛髪を世界中から集めて、髪へのダメージを実験しました。13種類に分類される髪の毛の種類に、7000回以上の温度実験を実施しました。

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