頼りにされると人間は変わる。

糸井:永ちゃん(矢沢永吉氏)はコンサートの時、舞台に出る直前までドキドキしているけれど、舞台に出た時には「俺んちの庭だ」という感覚になるらしいんですね。何万人ものお客さんがいなければコンサートは盛り上がらない。同時に、「俺がいなきゃそもそもできない」ということなんでしょう。今となっては、その気持ちが何となく分かる気がします。

 上場によって、僕の会社ではなくチームの会社にやっとなれました。それが喜びを持って迎えられたことは、すごくうれしいですよ。重たくもあり、誇らしくもあります。

引き際は聞かれるたびに本気で考えている

チームで運営する以上、後継者問題は避けて通れません。

糸井:最近は「糸井さんが死んだらどうするんですか」と露骨に聞かれるので、その都度考えていますね。でも同時に、思えばそんな年だったのかとハッとする。ちょっと悩ましいです。駅で歩くのが遅い老人がいるじゃないですか。「何しているんだよ」とイライラしかけて、いやいや、老人なんだから冷たくしちゃいけないな、と思いとどまる。隙を見て追い抜いた後で、俺の方が老人だったじゃないか、って気付く(笑)。

実際、お若く見えますよ。

糸井:68歳になっても足腰は丈夫で、不都合があるのは視力ぐらい。老化を忘れているんじゃないのかな。でもね、引き際は本気で考えているんですよ。

 僕が飼っている犬、もう老犬なんですが、これまでと同じトレーニングをしているはずなのに、歩くのが遅くなっているんですよ。何をしても年を取ればこうなるんだなって、犬で勉強していますね。だから、老いる練習というか、元気なうちに「こういう状態になったら身を引きなさい」って、将来の自分への置き手紙を作っておきたいなと思います。延命治療じゃないけど、無理して続けるのはかわいそうでしょう。

「ほぼ日手帳」に、その置き手紙を記入する欄をつくって、老眼鏡とセットで出したら、売れるんじゃないですか。

糸井:ほぼ日手帳のユーザーに老人が多いわけじゃないから(笑)。でも、そういう色々な物を作る時期が、もうそろそろ来たなとは思っています。同じものをずっと作っているわけですからね。

「(事業を突き詰めていくと)結局は、人間がどういう態度でいるか、どういう行動を取るか、どう考えるか、感じるかにつながっていく。どこの業界にいてもこれは同じ」と語る。

「いつかやろう」ではなく「いつやろうか」

働くことは快適さの対極にあるというのが、糸井さんの持論ですね。今は快適ですか。

糸井:苦しさとうれしさは紙一重。楽じゃないですよね。休みなしに働いている感はありますし、休んでいる時も何か考えている。

 昔からそんな状態が続いていたのですが、上場により、良い意味できりっとさせられました。上場前は、アイデアを思いついても「いつかやろう」と先延ばしにする部分があった気がします。でも上場したことで、「いつやろうか」と考えるくせがついた。チャンスが巡ってきたときに、その運を見失わないために起きていなきゃなと思っています。

 僕の中には、さぼろう、さぼろうとする自分がもう1人いますから。ぐずな自分が、そういう動機の弱さを更新して、今の自分になっていった。そのプロセスは、なかなか楽しかったです。