上場はお受験ビジネスに似ている

応援してくれる人もいたのですね。

糸井:途中から、株式上場は幼稚園のお受験ビジネスに似ているように思えてきたんです。あの塾に行って、あの先生に付け届けして、写真はどこの写真館で撮らないとダメだとか。そうした手続きを、あたかも貴重な情報かのように語る人だらけなんですよ。

 ところが、ある段階を超えたら逆に楽しくなってきた。特に面白かったのが証券会社との交渉です。僕が話す言葉と、証券会社の人が使う言葉は全然違う。「こう話すと絶対だめなんだな」「あ、この話は通じたようだ」など発見があるんですよ。社外の人が何を知りたいのか、どうすれば的確に伝わるのか。いろんなことがまだら状にあぶり出されていくのです。

 最後の仕上げはロードショー。株を買ってもらうために、約30の投資会社を回ったんです。僕らの話を理解してくれない人に限って、悪い人じゃないというのが面白い。そんな人たちが、一生懸命になって僕らの話を聞いてくれる。ありがたいことです。

 ロードショーに出る前、みんなに脅されたんですよ。「死にかねないですよ」って。終わったら確かにヘトヘトになりました。でも僕にとっては面白かったんですよ。あれが面白かったと言ったら、みんなが驚いた。それぐらい、人は知らないですよ。見たことのない幽霊を怖がっているようなものですね。みなさん、ロードショーは恐ろしいものだという先入観を持ち過ぎです。好奇心の強い人は、ぜひ株式上場を試みて経験してほしいですね。

物欲はほとんどない。多くの人が自分の悪口を言い合う「にぎやかなお通夜」が開かれるのが希望。

上場によって、チームの会社にやっとなれた

社内ルールの整備や書類作成など、準備作業は大変ですよね。

糸井:その過程も楽しみました。上場にあたって申請する書類を、ひな型通りに作るのはつまらない。僕らなりの言葉を使って表現できないか、一つひとつ考えていきました。書類から「ございます」という文言を削除したのは、ほんの一例にすぎません。

 大変だったのは僕以外の人ですよね。証券会社の担当者や、上場を想定せずに入社してきた管理系の社員たち。面倒臭かったでしょうね。かなりハードなエクササイズになりましたが、最後まで付き合ってくれて本当に尊敬しています。

 会社の一体感も高まったと思います。あらゆる社員が、上場準備チームを応援していた。チームのメンバーが黒い服を着て面接に行く時なんか、みんなが拍手して見送りました。

上場したことで株主に対する責任が生まれました。糸井重里の個人商店でなくなると、企業としての永続性が求められるようになります。

糸井:以前なら「俺はこの会社をつぶすぞ」ってわがままも言えたかもしれない。でも上場準備の過程で、それは無理だと気付いたんです。ほぼ日は読者や顧客も含めた組織です。自分でも意外なくらい、顧客のことを考えるようになったんです。まさかこんな人間になるとは思わなかった(笑)。