ほぼ日の商品のベースにあるのは「肯定感」

生活人であることを自覚している人に、何を提供していくのでしょうか。

糸井:大げさな言い方かもしれませんが、共通するのは肯定感でしょうか。同じものを見て面白いと肯定するか、悲しいと否定するかは人それぞれです。僕自身は否定感を抱えている人間なんですが、振り返って「生まれてよかった」と言える人がいる社会の方が、少なくとも他人を幸せにしますよね。だから、その肯定感につながるものを提供するというのが、ベースにある気がします。

 2016年6月にリリースした、犬猫の写真を共有するSNSアプリ「ドコノコ」なんかもそうです。「捨てられたかわいそうな犬や猫がいて、こんなふうに処分されています」と悲しい現実を前面に出して虐待防止を呼び掛けるやり方もあるけれど、一方でアプリを使って、Facebookみたいに犬や猫を“住民登録”して、みんなが「うちの子」を思い切り自慢し合う。そんなフィールドを作る方法もありますよね。やっぱり肯定感がベースにあると思います。

このところ、消費者の嗜好が多様化しているとよく言われます。糸井さんはどう受け止めていますか。

2016年1月、約5年ぶりにオフィスを移転した。秩父宮ラグビー場正門前のビルの9階にある、広いワンフロアだ。「近代的なオフィスビルは、ほぼ日に似合わないでしょ」と笑う。

糸井:身の丈以上の数を作ることが、高度資本主義の前提です。だから、大量生産を仕事にして、ある種の装置産業になっていくのが一つの成功モデルと言えるしょう。手帳はもう大量生産品の領域に入っていますから。

 ただし手帳を除くと、僕らは偶然、1000個売れるものを1000種類作るということをやってきた。いわば、うちは小企業のバザールがたくさんあるような感じです。だから当然、ミスるんです。在庫になる前に売り切れたり、ちょっとしたビジネスチャンスを逃したりとか。大企業の発想では、「そんなので食っていけるのか」と思われるかもしれませんが、僕らにとって1000人にしか売れない新しい商品を次々と生み出すというのは、楽しみでもあり仕事でもあるので、願ってもないことです。

作物が育つように、企業風土は自然とできてきた

ログハウスのような牧歌的なオフィスですが、ゆるんだ感じの社員はおらず、みんなが真剣にパソコンに向かっている姿が印象的でした。

糸井:社員が退屈しないようにということは、いつも気にかけていますね。最近、力仕事を含む大掛かりなイベントを社員総出でやったのですが、うちの良さがよく分かりました。「あいつも一生懸命やっているんだし俺も頑張ろう」とか、互いにちょっと尊敬しちゃうんですよ。

 創業当初はこうした雰囲気はありませんでした。岡山県は今でこそ桃の産地として有名ですが、誰かが最初に苗を植えた時は違っていたはずです。だから最近、僕らの仕事って農業っぽいなと痛切に感じるようになりました。時間とともに変わってきたことが、結構ある気がしますね。企業風土はこうして自然とできていくのでしょう。