昨年、スポーツビジネス界で最大の話題となった『カラダWEEK presents NTV SPORTS LAB』。第2回の開催が望まれている
日本テレビといえば、巨人戦を中心としたプロ野球、また箱根駅伝などのロードレースといった国内のスポーツ中継から、スーパーボウルやFIFAクラブワールドカップなど世界的なスポーツ中継まで、スポーツに関して多くのジャンルで強力なコンテンツを中継・制作している。
そんな日本テレビが昨年11月、テクノロジーとスポーツクリエイティブの未来を考えるイベント『カラダWEEK presents NTV SPORTS LAB』を開催。これが大盛況となりスポーツ界でも話題となった。対外的にも社内的にも好評となったイベントの仕掛人が、前回スーパーボウルの舞台裏について語ってもらった佐野徹・日本テレビスポーツ局担当部次長(兼)スポーツ事業推進部 プロデューサーだ。
取材を通して佐野氏には「スポーツ×テクノロジー」への並々ならぬ情熱を感じた。SPORTS LABの狙いは何だったのだろうか。
「スポーツ」と「テクノロジー」の親和性の高さに注目
昨年開催された『カラダWEEK presents NTV SPORTS LAB』が、スポーツビジネスを取材している自分の周囲でも大変好評でした。ああいったイベントを民放キー局の一つが開催することはTV局初です。開催のきっかけや、実現までの経緯を教えて下さい。
佐野:開催のきっかけは3つの理由からなんです。
1つ目は、『カラダWEEK』というキャンペーンです。『カラダWEEK』とは、日本テレビの様々な番組を横断して、「自分のカラダを見つめ直そう」というメッセージを打ち出していくという会社挙げての1週間キャンペーンでして、おととしの11月が第1回目でした。そこで去年の第2回目を実施するにあたり、何か新規軸を打ち立ててみようとなったことです。
2つ目は前回も話しましたが、私はそもそもスポーツとデジタルテクノロジーは絶対に相性がいい、親和性が非常に高いという確信があったからです。
3つ目は僕自身のここまでの経歴、あるいは職歴というべきでしょうか、それらがこのタイミングでうまく噛み合ったというか。
職歴といいますと。
佐野:大学を卒業後、1992年に三井物産に入社しました。物産では情報産業本部に在籍。最初は移動体通信事業部というところに配属されまして、当時まだポケットベルが主流の時代で、私もポケットベルや携帯電話の仕事をしていました。「モバイルデータ通信」、今でいうならiPhoneやiPadですね、そういったものが近い将来に絶対に来るという会話をよく上司と話していましたし、巨額の投資案件がどんどん進んでいきました。
初期でありますがデジタル産業の真っ只中に入っていったのですね。
佐野 徹(さの・とおる)氏
スポーツ局担当部次長(兼)スポーツ事業推進部プロデューサー
佐野:そうですね。ポケットベルの輸出業務で商社実務の基本を学びつつ、携帯電話の販売網の対応などをやった後に、国際通信の仕事を担当することになりました。古い話ですが、国際電話がKDDの1社独占から通信の自由化によって新規参入が許され、大手商社など大資本が一気に通信業界に参入。その一つに「0041」で発信するITJ(日本国際通信)という国際電話の会社がありまして、その担当です。三井物産、三菱商事、住友商事、丸紅、日商岩井(現・双日)など、伊藤忠商事を除く大手商社と松下電器産業(現・パナソニック)が作った会社です。
私がそこの担当をしていたら、三井物産の米国駐在している先輩方から「インターネットと呼ばれるモンスターの様なものが出てくる」と報告がありました。海外のサーバーと通信するのに国際電話代がかからないらしい、でもなぜ電話代がかからないのか誰もわからない(笑)。インターネットの仕組みをまだ誰も理解できずにいて、とにかく国際電話を扱っている部署の人間が担当すべきではということで、私のいるチームにインターネットの仕事が舞い込んできたのです。それからの三井物産は、商社の中でも抜きん出てインターネットビジネスに巨額の投資をしていきました。
その後も情報産業メインのキャリアなのですか。
佐野:基本的にそうです。97年からベトナムに転勤、アシスタントゼネラルマネージャーとして、情報産業本部全体の仕事をやっていました。ただ駐在先がベトナムだったということもあり、インターネットというよりも通信インフラ整備といった国家プロジェクトの受注を狙う仕事をしてました。
2000年に日本に帰国、メディア事業部 インターネット事業室に戻りました。そういう意味では、デジタルテクノロジーというものに関し、昔から色々といろいろと手掛けていたと言えるかもしれませんね。日本のネット・デジタル業界の中でもやや早い段階から仕事を担当していたと思います。
デジタル放送のタイミングで日本テレビへ
その後にテレビ局へ。
佐野:2000年の秋、日本テレビに転職しました。ちょうど放送のデジタル化のタイミングで、特に地上放送のデジタル化という大ヤマの準備に差し掛かる頃でした。
日本の放送のデジタル化とは、まずCS放送の多チャンネル化から。デジタルっていろんなことができるようになる。多チャンネルもできる、高画質化もデータ放送もできる。まずはCS放送で多チャンネルが始まり、BSのデジタル化でハイビジョンが始まった。そして今度はついに本丸の地上放送のデジタル化というタイミングで、私は日本テレビに転職したのです。
デジタル化のなか、主に携わったプロジェクトは。
佐野:様々なことを担当させていただきましたが、主にと言われれば「ワンセグ」になりますね。日本の地上デジタル放送の方式は、テレビ局に与えられる一つの電波帯域を13個のセグメントに分割できまして、セグメント毎に放送方式を変えて放送することが可能になっています。そこでこの特徴をフルに活かす方法として、12個のセグメントを使ってハイビジョン高画質放送を放送すると同時に、残った1個のセグメントでは、放送方式を大胆に変えて、超小型テレビチューナーと超小型アンテナで、高速移動しながらも受信しやすい方式で放送してみたらどうかと、これで超小型テレビが実現できるのではないかと、そういう構想を持って技術開発がなされていました。
ただ本当にこの構想というか、手法で地上デジタル放送を実際に開始するかどうかの決定はなされてない状態で、僕が日本テレビに転職してきました。ちなみにこの「ワンセグ」という名称は、1個のセグメントだけを使って放送するサービスということで、後から名付けられたものです。
テレビというサービスはそれこそ端末が普及しないと全く意味がないのですが、この「ワンセグ」端末を市場に普及させるためには、とにもかくにも携帯電話の中にテレビチューナーを搭載してもらうしかない。つまりNTTドコモの様な携帯電話キャリアがメーカーに製造発注している携帯電話の中にテレビチューナーを搭載してもらわなければならないわけです。
当然ながら携帯キャリア側はアレルギー反応を示します。どんどん高機能化し、既にインターネットマシンとなっていたiモード携帯電話端末を、店頭ではほぼ無料に近い金額で販売していた時代です。そこに何故さらに高価な地デジテレビチューナーを搭載しなければならないのか。しかもテレビを見られたら通信も発生しません。携帯キャリアにとってみたら、製造コストはかかるくせに、通信収入が減る可能性がある。そんな携帯キャリア側に合意を取り付け、チューナーを搭載してもらわなければワンセグの普及はない。テレビ業界側に携帯キャリアとのかなり高次元な交渉能力が要求されました。
そこでたまたま私に白羽の矢が立った。三井物産の新入社員時代から携帯電話関連の仕事をしていたことが本当に役立ちました。テレビ業界側の幹事役として携帯キャリアの方々との交渉、合意形成作業を担当しました。
当時、携帯電話への様々な機能搭載をアプローチしていた「ライバル」が多数存在しましたが、皆様のおかげでワンセグの支持を獲得することができ、その後のワンセグ放送開始、あっという間のワンセグ端末1億台普及を実現させることができました。モバイル関連の様々な賞も多数受賞させていただきました。確かその頃のヒット商品番付の上位をワンセグケータイが占めていたはずです。当時激論を交わした携帯キャリアの方々や、同志だったテレビ各局の方々とは今でも仲良くさせていただいています。
まさに通信端末やインターネットなど、デジタル化の最前線にいたのですね。
佐野:長々と話しましたが、どっぷりやっていましたね(笑)。どっぷりやっていた人間が、現在スポーツ局にいるということもあり、「スポーツ×テクノロジー」の相性の良さをさらに活かしていくことはできないかと思ったのです。しかもスポーツビジネスの世界最高峰の象徴であるスーパーボウルを現地から中継し、直に触れている。今、アメリカで何が起きているか、を肌で感じている。さらに言えば、自分自身もプレイヤーとしてスポーツデータを活用して幸運にも結果を得ることができた。これらがイベントを思いつたきっかけです。一人でも多くの人に「スポーツ×テクノロジー」の親和性の高さを感じてほしいと。
そもそもスポーツの特性とは何なのだろうか?
「スポーツ×テクノロジー」の最大の特性は何だとお考えですか。
「ラインを突破!」。まるで日本のアニメを見ているようなNFLのリプレイ画像(©NFL JAPAN)
佐野:スポーツをもっとエンタメに寄せてみたらと先ほど言いましたが、それでは映画、音楽、ドラマ、バラエティなどなど様々なエンタメコンテンツとスポーツを並べてみた上で、その中でスポーツの特性とは何だろうと考えた時、もちろん「筋書きのないドラマ」が最大の違いではありますが、さらに加えて「データの宝庫であること」ということも大きな違いかなと。そしてそうした「データ」は、テクノロジーを活用することで、いかようにでも表現できますし、進化、変化もできる。スポーツを映像コンテンツと見立てると凄い事になるのではとワクワクしてきます。
それから『カラダWEEK presents NTV SPORTS LAB』が正式に動き出したのですね。
佐野:みんなの協力があって成立したことです。社内では他のスポーツ局のメンバーや、そうではない部署も一緒になって企画検討してくれました。みんなの合意を得て、最後は経営層の合意も得て実現に到りました。開催半年たった今でも意義深く感じてくれている仲間がいます。昔からすごく仲間には恵まれています。
一緒に推進してくれた日テレラボという社内に新設された部署に、昔から信頼している以前の僕の部下がいました。加藤友規さん〔日本テレビインターネット事業局インターネット事業部主任(兼)社長室CSR事務局(兼)海外ビジネス推進室海外事業部〕も中心となって、僕と一緒に進めてくれました。
日本テレビは最先端のテクノロジーやクリエイティブをテーマにした『SENSORS』という番組があり、イベントもいろんな形で常に開催していています。いいアンテナを張っている面々がいる。社内のポテンシャルが活かされたイベントでもありました。
イベントは今年も開催されるのでしょうか。
佐野:できればやりたいです。こういうことをやったほうが刺激にもなりますし意義深いことです。
予想以上に反響が大きく、特に出展された方、お越し頂いた方が、それぞれ刺激を受けて、融合して、次のステップを生み出すということが現実に起こっています。お仕事的に繋がった方もいる。そこから新しいテクノロジーやビジネスが生まれたら最高ですね。なので、今後も是非継続していければと願っています。
Powered by リゾーム?