広告主のニーズの変化という意味では、多くの広告主は今、新たな課題を抱えています。例えば、ダイレクト系であれば、新たな見込み客の育成などにあまり取り組んでこなかったため、刈り取りきってしまった面がある。そのため、効率が著しく低下するような企業もある。そうした課題から、見込み客の育成、ナーチャリング、そして、獲得後のCRMといった施策の統合的な支援を求めています。
加えて、広告主は、顧客と関係性を保ち、長期間に渡って製品やサービスを使ってもらうように、その考え方を変えてきています。そうした戦略を進めるには、デジタルマーケティングやCRMへの取り組みは極めて重要です。広告という領域だけではカバーし切れません。ですから、そうしたニーズの変化に対応するため、新会社を設立したというのが1つ目の理由です。
また、これまで広告は、クリエイティブのアイデアを買ってもらうという側面が大きかった。ただし、決まるか、決まらないがアイデア次第ですから、事業モデルとしては不安定です。さらに、こうしたキャンペーンモデルは"新車"が出ない限り仕事が来ません。我々にとっても、顧客と長期的な関係を保ちたいという広告主のニーズを統合的に支援するというビジネスは、新しい安定的な事業モデルになる可能性があるのです。
機動的な人員配置も新会社設立の狙いの1つ
新会社を設立するもう1つの理由は、機動的な人の配置をするためです。デジタルマーケティングにおいて、中間的な作業は機械化が進んでいます。顕著な例では、ある企業のソーシャルリスニングを請け負った時に、コミュニケーションの戦略を考える“上流”の仕事と、実際にソーシャルメディアからクチコミを収集する作業が生じました。このクチコミ収集作業を担うのは、アルバイトでも十分です。ですが、その採用のために役員の承認が必要になったりする。そこで、本体とは異なる人事制度を持つ新会社にすることで、より機動的に人材を配置できるようになると考えています。
広告主が統合的なマーケティングを望むのであれば、電通内の組織であった方が、マス広告との連携はとりやすいのではありませんか。
大山: マーケティングをマスと一緒にやるのは王道ですが、現状の事業とは一度、切り離すべきと考えました。例えば、経営コンサルティング会社はきちんとコンサルティングやプランニングでフィーをいただいています。ですが、電通は買い付けて来た広告枠を販売するために、それらをサービスで提供してしまっていた面もあります。
コンサルティングやプランニングをするなら、出した知恵の対価としてフィーを取れるようにならなければならない。ですが、同じ会社にいては、事業モデルを大きく転換することは難しい。ですので、別会社にすることで、退路を断ってやりたいと考えました。
特に米国でのコンサルティング会社の動向に危機感を抱いているとのことですが、国内市場はどう見ていますか。
大山: 楽観的な見方をすると、米国ほど危機的な状況ではまだないと考えています。なぜならマーケターやクリエーターは、総合広告代理店にまだまだたくさん在籍しているからです。また、専門的な技能を持ったクリエイティブエージェンシーであっても、総合広告代理店と共に仕事をしている企業が多い。ですから、コンサルティング会社は、そうした人材を採るのに苦労していると聞いています。ですので、現時点ではお互いの戦いはそれほど激しくなっていないという認識です。
例えばオムニチャネルが流通企業の売り方そのものを大きく変革させる概念であるように、デジタルマーケティングは経営と密接な関係になりつつあります。新会社で経営コンサルティング領域までカバーしようという考えはありますか。
大山: その領域まで狙いたいと考えています。ですが、経営コンサルティングを任されるほど、信用されているかというとそうではないでしょう。我々にとって追い風なのは、データが増え続けるのが確実で、かつそのデータを一元的に扱うことが重要になっているという点です。
従来、事業会社は事業部ごとに製品を作って売っていました。ですが、最近では顧客の情報を一元的に取り扱うため、各製品やサービスで共通のIDを持たせようという動きが見られます。ID統合の事業戦略から、KPI(重要業績指標)の策定、IDを管理するシステムとデータ取得のプラットフォームの設計。こうした仕事は、複数の企業が分担して担うのではなく、どこか1社が担うべき仕事だと見ています。
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