かつて超高齢組織だった東京・大田区の町工場、ダイヤ精機を30代以下が6割以上という若い組織に変革した諏訪貴子社長。人材育成の軸に据えるのは社員とのコミュニケーションだ。といっても、「社員と仲良くなること」とは違う。社員の性格や資質を見極め、技能を高めるために、コミュニケーションというツールを使いこなすことを意識しているという。若者が集まる町工場で実践してきた、諏訪流コミュニケーション術とは。
(前回から読む)
ダイヤ精機で社長と新人との間で交わす交換日記が一人ひとりの個性を浮き彫りにしているということがよくわかりました。諏訪さんは毎日、これらのノートを読み、アンダーラインを引き、花丸をつけたり、コメントを添えたりしているわけですが、どれぐらいの時間をかけているのですか?
諏訪:私が交換日記でやっているのは、ノートの中身を読み、コメントをつけることだけではありません。毎日、ノートから読み取った情報を基に、「この子はこういう方向の声かけをしていこう」「こういう指導が必要だ」といった育成方針を決めたり、「こんな接し方が良さそうだ」「ここがわかっていないようだから確認しておこう」という留意点を明らかにして、現場の工場長、副工場長、教育係の社員たちと打ち合わせをします。
これらの作業にはどうしても1時間ぐらいはかかりますね。過去には一度に4人の新人が入ってきたことがあって、その時は1時間半ぐらいかけていました。


ただ日記をつけさせるだけではなく、それを基に新人一人ひとりの育成方針を立て、現場の社員と共有するのが大事だと。
諏訪:社長だけではなく、周囲の社員すべてが同じ意識を持っていないと、新人を成長させることはできません。日々、育成方針や指導方法を微修正し、それで新人にどういう変化が生じるかをまた次の日の交換日記で確認し、再び修正する。これを繰り返します。
諏訪さんの新人育成に対する考え方や視点が現場の社員たちに毎日、移植されているのですね。
諏訪:そうです。彼らが気づかなかったことを私が指摘すれば、「そういう見方があるのか」と学ぶきっかけになります。次からは、彼らも私と同じような視点を持つことができる。これも間接的なリーダー教育だと思っています。

1971年東京都大田区生まれ。95年成蹊大学工学部卒業後、自動車部品メーカーのユニシアジェックス(現・日立オートモーティブシステムズ)入社。98年父に請われ、ダイヤ精機に入社するが、半年後にリストラに遭う。2000年再び同社に入社するが、経営方針の違いから2度目の退社。2004年父の急逝に伴い、ダイヤ精機社長に就任、経営再建に着手。その後、10年で同社を全国から視察者が来るほどの優良企業に再生した。経済産業省産業構造審議会委員。政府税制調査会特別委員。日経ウーマン「2013ウーマン・オブ・ザ・イヤー」大賞受賞。「夢の扉+」(TBSテレビ)、「日曜討論」(NHK総合)などメディア出演多数。(写真:稲垣純也、以下同)
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