リーダー予備軍の日記はバランスがいい

諏訪:次はこのノートを見てください。将来、ダイヤ精機のリーダーになり得ると期待している子のものです。全体的に、とてもバランスがいい。その日にやった作業の図面を張って、「注意点」とか「かかった時間」とか、カギになる要素を取り出して、うまくまとめています。見る人が見ると、この日にどういう加工をしたのか、どういうことに注意しながら作業したのか、どこがうまくいかなかったのかといったことがはっきりとわかります。自分なりのスタイルを確立し、必要な情報を過不足なく伝えたノートです。

作業を始めた時間と終了した時間を書いていますね。これは誰かの指示によるものですか。

諏訪:違います。誰も交換日記に関して「こういうことを書きなさい」といった指導はしません。本人に自分が作業するのにかかった時間を注意しようという意識があるから出てきた記述でしょう。

たぶん、自分は周囲の先輩に比べて同じ作業に時間がかかっていると感じたのでしょうね。先輩たちが手早くできるのはなぜだろうという視点がある。

諏訪:さっきの子と違って、ものづくりの現場に意識が向いていますよね。こうやって、作業にかかった時間を書き留めておくと、同じ製品のリピートオーダーが来た時に参考になるのでとてもいいことです。日々、かかった時間が短くなっていけば、自分の成長の足跡もたどることができますし。

 彼も最初から交換日記に自分なりのスタイルをつくって書いていたわけではありません。当初の日記は午前と午後に分けて、それぞれの時間にやった作業についてまとめていただけ。多くの新人が書いてくるような内容でした。だんだんと自分なりにどういう伝え方がいいかを考えてつくり上げていったのでしょう。

変化のきっかけがあったのですか。

諏訪:ある日、私が「ノートは後に自分の辞書になるように」とコメントしています。先輩や私がアドバイスした点をまとめておくと日記は「自分だけの辞書」になって、作業がわからなくなった時、つまずいた時に読み返せば、仕事がぐんとやりやすくなるんです。私のコメントを見た彼は、後で見やすいようにポイントを抽出するスタイルにしたのでしょうね。

社長の示唆を咀嚼して彼なりのやり方を見つけたと。なかなかできることではありませんね。

諏訪:同じことを言っても全然反応しない子もいますよ。だからやっぱり彼はリーダーになる素質がありますよね。中間管理職というのは上司の言うことを咀嚼してメンバーに伝えていくことが必要ですから。こういう資質ってペーパーテストをやってもわかりません。個性が出る交換日記だからこそ見えてくるものがあるんです。

こうして実際にノートを見ると、確かに社員一人ひとりの個性が浮き彫りになっているのがわかります。ただ、一方で経営者側、リーダー側の「読み取る力」が非常に重要であるとも感じます。同じノートを見ても、「原因を探ろうとする姿勢がある」「慎重で冒険しない性格だ」「リーダーの資質がある」と全員が読み取れるわけではないでしょう。いかにノートの中から一人ひとりの本質を見抜くがポイントになりそうです。

諏訪:前に話した通り、交換日記を始めた当初は新人の性格を読み取ろうとしていたわけではないんです。でもやってみたら、本当に個性が浮き出るので面白くて。これまでに私は新人数十人分の交換日記を見てきました。いろんな経験を積み、試行錯誤する中で、私も本質を見極める目を養わせてもらったのだと思います。

(次回に続く)

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