貿易赤字を解消するなら南シナ海から退く…

米国が北朝鮮に先制攻撃を仕掛ける可能性はどれくらいあるでしょう。

川上:私はかなり高いとみています。

 このまま放置すれば、米本土を射程に収める大陸間弾道弾(ICBM)を北朝鮮が完成させるのは時間の問題です。そうなってからでは遅い。今なら、その目的を挫くことができると考えているのです。

そうすると、シリアと北朝鮮と同時に対峙することになりますね。

川上:トランプ大統領ならあり得るでしょう。

 それどころか、「米軍はこれを機に中国海軍まで叩きたいと考えている」と指摘する米国の専門家もいます。

中国と戦うのですか。

川上:そうです。北朝鮮の核と同様に、中国も航空母艦をはじめとする海軍力をどんどん強めています。こちらも取り返しのつかない規模に成長する前に、今のうちに叩きたいと考えているのです。

 私は米中のディールは北朝鮮の核にとどまらないと見ています。トランプ大統領は対中貿易赤字の解消と、南シナ海や東シナ海における安全保障との取引が進行中だと見ています。

安全保障と貿易を取引材料にするのですか?

 2月に行なわれた日米首脳会談について、いくつかのメディアは、「安全保障と経済をバーターにしない。つまり、米国が日本を守る代わりに、日本は対米貿易赤字を解消する、といったディールを行なわない」との言質をトランプ大統領から取ったので会談は成功と評価していました。

川上:私は異なる見方をしています。トランプ大統領が重視するのは、一にも二にも貿易赤字の解消です。そのおよそ半分を中国が占める。中国がトランプ政権の要求を受け入れて赤字解消に動くならば、米国が南シナ海への介入をやめることもあり得るでしょう。南シナ海の入り口を扼す台湾への肩入れもやめる。ステルス性能を持つ第5世代戦闘機F-35を台湾に売ることもないでしょう

 東シナ海も例外ではありません。米国は、尖閣諸島の防衛に関与しない。中国公船が今以上に多く、高頻度で押しかけるようになりかねません。

貿易赤字の解消と、南シナ海や東シナ海における安全保障の取引は、日本人の目から見ると、天秤が中国有利に大きく傾いているように見えます。

川上:そうかもしれません。しかし、トランプ大統領には釣り合っているように見えると思います。

南シナ海や東シナ海が中国の勢力圏に入れば、米国のシーレーンの安全を脅かすことにもなりませんか。

川上:米軍はそう見ていると思います。なので、トランプ大統領がこのようなディールをまとめる前に、中国海軍と一戦交えようと主張する勢力があります。

え、戦争によって事態の解決を図ろうというのですか。

川上:先ほどお話しした北朝鮮に対する先制攻撃と同じ考え方です。勝利する確率が高い今のうちに中国海軍の力を削いでおく。

どっちに転んでも日本には大きな影響がありそうです。

川上:はい。日本は米国が提供する拡大抑止への依存度を減らす道を考える時期に来ているのかもしれません。