再び大国がリーダーシップを発揮する時代が来る可能性はありますか。
ブレマー:有力候補はやはり米国と中国だ。中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を主導し、自前の製品開発力を高め、サプライチェーンも構築している。アジアの一部の国にとって中国は既にリーダー国となっている。ただ、中国はかつての米国のように、世界の警察になるつもりはない。世界の貿易を振興しようという考えもないだろう。
米国も多方面で貿易関係を構築することよりも、特定の国との緊密な関係を選ぶようになった。そこに長期的な外交戦略はなく、より商業的な価値や自国のセキュリティーが優先され、保護主義的な意味合いが強くなっている。これは次の大統領が誰になっても変わらないだろう(※このインタビューが行われたのは、米大統領選挙でトランプ氏が当選する前だった)。
ただ、米国も中国も経済、地政学の両面で安定した欧州を望んでいる点で利害関係は一致しており、今後はつながりが強まる可能性もある。
大国のリーダーシップが失われつつある一方、各国には大衆迎合主義(ポピュリズム)が台頭しています。
ブレマー:グローバル化によりわずかな富裕層が多くの富を抱え込む構造が定着した。それでも、世界経済が成長している間は、中間層の所得が上昇し、国が豊かになっていた。しかし金融危機以降に成長が停滞し、中間層はかつてのような収入増は見込めず、富裕層は租税回避地などを利用して所得を防衛するようになった。
広がる格差は多くの中間層や低所得層にとって国家に対する不信感と不満につながり、ポピュリストはそれを巧みにあおる。『我々のことを考えない政治エリートに罰を与えよう』と。
英国では移民問題や経済への影響が争点になったと言われるが、それは表層的な理由だ。その裏にある、大多数の国民が政治的なエスタブリッシュメントに抱いていた不満が大きかった。この状況は、英国だけでなく欧州各国や米国で見られる現象だ。
政治的な指導力を発揮することがますます難しくなっていると。
ブレマー:その一方で、興味深い動きもある。ローマ法王のような、国家を超えた組織の指導者が重要なリーダーシップを果たしていることだ。ローマ法王は、今や世界を二分するようなテーマに積極的に関わっている。非科学論争や避妊、同性婚の問題など、センシティブだがどれも極めて大事なイシューだ。
昨年、地球温暖化防止を議論したパリ会議でも、陰で影響力を発揮したのは、ビル・ゲイツ氏やイーロン・マスク氏といった企業家だった。国家の影響力が相対的に衰える中で、こうした新しい形のリーダーシップは今後さらに重要性を増すだろう。
(日経ビジネス2016年7月25日号より転載)
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