
米国際政治学者。1994年米スタンフォード大学で博士号を取得。25歳で同大学フーバー研究所の史上最年少研究員に。98年にシンクタンク、ユーラシア・グループを設立し、政府系機関や金融機関、多国籍企業など約300の顧客を抱える。(写真=Mayumi Nashida)
英国のEU離脱をどう位置付けていますか。
イアン・ブレマー氏(以下、ブレマー):私がシンクタンクを設立した1998年以来で最大の地政学リスクだと考えている。戦後、世界は米国1極の『G1』から、先進国の『G7』、中国やインドを交えた『G20』体制へと極を分散させてきた。そして今や世界に圧倒的なリーダーが存在しない『Gゼロ』の時代に入った。英国のEU離脱はその象徴的な出来事だ。
2001年に米同時多発テロが起きた当時、米国はまだ世界への影響力があり、リーダーシップを発揮してテロ対策を先導した。2008年の金融危機時も、力は弱まりつつあったが、米国を中心に国際的に連携し、金融・財政の両面で対策を打った。
今回は事態を収束する国が見当たらないどころか、英国に続こうとする勢力が増えている。金融市場や世界経済のマイナス要因だけと考えず、欧州全体が長期間にわたって脆弱な状態に陥る、地政学リスクとして捉えるべきだ。すぐに効き目の出るような対策は存在しないため、この先5年、10年はかかる息の長い対応が求められることになる。
欧州は解体の道へ向かっているということでしょうか。
ブレマー:残念ながら国家を超えて共通の価値観でまとまるという実験は失敗に向かっている。今や大欧州の崇高な理念は風前のともしびであり、もう元には戻らないだろう。
一方で、経済面での結びつきが弱まることはない。EUの単一市場はなくならないだろうし、経済統合プロセスは今後も続くだろう。
EUは拡大を急ぐあまり、ロシアやトルコに拙速に近づきすぎた。EUと彼らでは政治理念や経済価値が違いすぎる。そのひずみが、中東から大量に押し寄せる難民問題や、欧州各国で頻発するテロとなってEUを混乱させた。
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