3月30日から日本で公開される映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」。海外では既に大きな話題となっている。第90回アカデミー賞で主演のゲイリー・オールドマンが主演男優賞を受賞。そして、メイクアップアーティストで現代美術家の辻一弘氏が日本人として初めてメイクアップ&ヘア賞を受賞した。そんな辻氏に、映画での特殊メイクの苦労、ハリウッドでの生き残り方、仕事に対する向き合い方について話を聞いた。

映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」での特殊メイクは素晴らしいものでした。一番苦労された点とは何でしょうか。

:第二次世界大戦下で英国首相を務めたウィンストン・チャーチルは、世界中の誰もが記憶にとどめていると言っていいほど顔の知られた人物。実在した世界的有名人に似せるのは、それだけでとても難しい作業です。

 加えて、主演男優であるゲイリー・オールドマンとウィンストン・チャーチルとでは、顔の造形がまったく違うんです。一番の違いは目の位置。ゲイリーは目と目の距離が短く、チャーチルは長い。だからゲイリーの顔を単に太らせて幅を拡げても、目の位置がどんどん近づいてしまう。いかにチャーチルの目に似せるか。それを考えてデザインするのは難しかったですね。

“辻さんらしさ”が出ている部分とはどこでしょうか。

:全体です。顔のバランスもそうですし、髪の毛もそう。私の特徴は、髪から顔、体型まで、すべてのメイクができることなんです。通常、顔や髪の毛、体の形といったパーツごとにそれぞれ別の担当者が手がけるケースが多いのですが、そうなると複数の人が関わるため1つの完成形としてうまく仕上がらないこともあります。この映画では、体の形から顔、髪型まで、すべて私一人でデザインを担当しました。

メイクデザイン全体に相当な労力がかかるということですね。

:テストメイクだけで5回は行っています。そうやって試しながらデザインを変えて、“最適解”に近づけていく。そこにたどり着くまでに約6カ月かかりました。誰もが知っている人物に似せて、誰もが納得するような「リアルな顔」に仕上げていくのは、とても難しい仕事なのです。