英ロンドンを拠点にする欧州の大手ベンチャーキャピタル、Atomico(アトミコ)。ネット通話サービス「Skype」の創業者らが2006年に立ち上げた。米シリコンバレーに負けない起業環境を欧州に構築することを目的に、これまで70社以上のスタートアップに出資してきた。投資家としてだけでなく、起業家のメンターなどを支援するパートナーとして、起業を後押ししている。
投資先の中には、ゲーム大手のスーパーセルなど、世界的に有名になったスタートアップが少なくない。活動の場は米国やアジアにも広がっており、日本ではニュースアプリを開発する「スマートニュース」や多言語翻訳サービスの「Gengo」に投資する。
2月16日には、総額7億6500万ドルの新たなファンドを組成した。欧州を中心に、世界を舞台にした投資活動をさらに拡大する。
欧州の起業環境は活況を呈するが、一方で、英国のEU(欧州連合)離脱など、政治の不透感が漂う。その実情について、アトミコ幹部の田村裕之氏に聞いた。

アトミコ マネージングパートナー。米ノースウェスタン大学卒業。米リーマン・ブラザーズ本社、香港の独立系投資ファンドを経て、日本で投資会社を起業。同時に、Skypeの日本戦略アドバイザーに就任。2008年、スカイプ共同創業者のニクラス・センストローム氏に誘われアトミコに参画。ファンドの資金調達や投資先の発掘および投資を担当する。フィンテックが得意分野。主に米国市場で投資先企業の事業戦略を支援している。
2月16日に、7億6500万ドル(約856億円)の新たなファンドを組成しました。アトミコにとっては、過去最大のファンドです。欧州のスタートアップの活況ぶりを反映しているのでしょうか。
田村:欧州のスタートアップへの関心は着実に高まっていると思いますね。米シリコンバレー以外でも、世界クラスのスタートアップが生まれるケースが増えており、その流れの中で欧州に注目が集まっています。欧州スタートアップへの投資も着実に増えていて、2016年は、140億ドル(約1兆6000億円)投資されました。5年前の2011年が28億ドル(約3100億円)でしたから、5倍以上の規模です。
もちろん、この背景には、欧州でシリコンバレー並みの起業環境が構築されてきたことがあると考えています。
従来、シリコンバレーと欧州では、スタートアップを大きく成長させる環境、いわゆる「エコシステム」の完成度が大きく違っていたと思うんです。具体的には、資金と人材の2つの要素があります。
とりわけ大切なのが人材面。シリコンバレーは長い歴史を持っており、小さな企業が世界クラスに育っていく過程を知り尽くしている起業家や投資家がごろごろいます。彼らはノウハウを次世代に引き継いでいて、それがシリコンバレーの強みになっています。
シリコンバレーにいれば、何か困ったことがあっても、「勝ち方」を知っている先輩起業家や投資家に相談できる。これが、他には真似できない強みです。
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