来年以降を考えたとき、スクリーニングの基準が同じだと、大賞や入賞の候補の顔ぶれが固定的になってしまいませんか。
伊藤:そうですね。だから、審査の際、評価の「軸」は変えていくことになるかもしれません。オブ・ザ・イヤーは客観的な基準だけで判断するものではなく、日本のコーポレートガバナンスの状況によって変えるべきだと考えるからです。
売られるときもコーポレートガバナンス
今後、どのような、新しい審査基準が出てくると考えられますか。

伊藤:最近、日本企業も積極的に企業買収をするようになりましたよね。この交渉をするとき、買う側のCEOと売る側のCEOが当事者になっていると思います。でも本来、売る側の取締役会も議論に深く関わるべきです。
企業が株主のものであって、その利益を守るのが取締役であるならば、CEOとCEOが握手をしても、条件はまだ揃わない。OKを出すのは取締役会であるべきです。買収価格についても取締役会が首を縦に振らなければ、本来は成立しないはずです。
日本にいると、そういう意識は薄いでしょうが、買収される側の米国企業の取締役会は、「1ドルでも高く売る」のが使命なのです。逆に言うと、高い価格での買収を提案されたら、相手がよっぽど変な会社でない限り、買われることを検討しなければならないのです。
コーポレートガバナンスは、「企業の稼ぐ力を高める」ことが目的の1つですが、この「稼ぐ力」を狭くとらえず、企業の価値を最大に見立ててくれるオファーがあれば、売る決定をするのも取締役会の使命というわけです。
最近、ガバナンスは守りの手段として見られることが多いですが、こう考えると、かなり積極的な攻めの手段ということができると思います。
日本企業は、売るときのコーポレートガバナンスという経験がまだありません。未体験ゾーンですね。数年後には、高く売れた会社について「売却時の会社のガバナンスが良かった」ということで、オブ・ザ・イヤーの候補になったりするかもしれない。買われて親会社に吸収されたりしたら、誰を表彰すればいいか、分からなくなってしまうかもしれないけど(笑)。
他に、新たに取り入れたい評価軸はありますか。
伊藤:すぐにでも加えたいのは、投資家と取締役の「対話」のレベルですね。コーポレートガバナンス・コードも、その投資家版である「スチュワードシップ・コード」でも、取締役会と投資家の対話を促しています。しかし、今回の評価では投資家側の視点は入れていません。「あの経営者は対話に非常に熱心で対話のレベルが高い」とか、来年はぜひ入れたいですね。
場合によっては、機関投資家にもアンケートをとらなければいけない。ただ、投資家も数多いので網羅するのが大変だし、評価の公正さをどう担保するかが課題になると思います。
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