トヨタ生産方式では在庫の数を一定にすること、在庫を増やさないことを命題にしています。洋服の場合は昔から在庫の問題が大きかったのですが、オーダーになればそれが減らせるということですね。

柳井:我々の業界は在庫でつぶれるんです。僕は仕事を始めた頃から在庫の存在が負担だったし、嫌だった。売れないから在庫が残る。それで、マークダウンして在庫を処分する。すでに損です。在庫の処分ばかりしていたら、今度は正規の価格の商品が売れなくなる。そうしているうちに会社は立ち行かなくなる。

 売れない商品を作ることは罪悪に等しい。買う価値のある商品を作る。それがテーマでした。そして、今やっと会社の体質が強化され、データを蓄積し、情報の使いこなし方がわかってきた。在庫をなくすことは以前から考えていたけれど、やっと実現できるだけの能力が備わってきました。

有明に大きなオフィスを作ったのも、社内情報を平準化するためですか。

(写真:竹井俊晴)

柳井:それだけではありません。うちに限らず、これからのビジネスマンは自分の部署の仕事だけわかっていればいいということでは通用しません。お客さまを見ながら、企画、生産、販売、物流など他のジャンルについても理解しないといけない。たとえば、自分が縫製の担当であっても、縫製のことだけを考えていればいい時代は終わりました。お客さまに対する商品とサービスを考えながら、縫製の仕事をする。

 有明は5000坪でワンフロアです。千人が一緒に働いています。人と人が出会う。自分の部署と関係ない仕事を提案して、実行する。

 大企業になると、自分の部署と他人の部署はまったく違うからと関心を持たないようになる。自分の部署だけを考え、自分のところだけが得するようなことを考える。それをやめようということです。商売全体を知らなくてはダメです。

大企業病、官僚化を防ぐ意味もあるのですね。

柳井:大企業になっちゃダメですよ。たとえばソフトバンクはまだ大企業にはなっていない。役員会を見ていると、黙っている人はいませんし、あうんの呼吸も忖度もない。孫さん、永守さん、僕、誰もがはっきりとものを言う。会議では幹部になればなるほど意見を言わなきゃいけない。他人の意見をハイハイと聞いているだけの人に経営はできない。

 この本にも「昔、トヨタの役員会は怒鳴り合いだった」とありますけれど、伸びていく企業はそうですよ。すべて明確な言葉でストレートに伝える。

 僕は「厳しい経営者」と呼ばれています。しかし、豊田喜一郎さん、大野さんに比べればぜんぜん甘い。彼らが持っていた危機感を持たなくてはならない。トヨタというベンチャー企業の本質は経営者が危機感を持ち続けていることです。

 大競争時代だけれど、ユニクロはトヨタには負けません。僕らは実業の人間だから、実業で結果を出します。