『日経ビジネス』2016年3月7日号で特集した「経営者 本田圭佑が米国に進出するワケ」はサッカーファンのみならず、多くの経営者やビジネスマンからも大きな反響を呼んだ。そのビジネスセンスの高さと壮大なプランに驚かされたからだ。

 本田圭佑選手にとって今年2017年は勝負の年だ。日本代表としてはロシアワールドカップのアジア最終予選で厳しい戦いが強いられ、昨年出番の少なかったACミランでも活躍が期待されている。そしてまた、「経営者 本田圭佑」としても飛躍の年となるであろう。

 ビジネスマンとして、2017年にどんな戦略を持って、どう挑んでいくのか。その実情を知る男がいる。本田選手が最も信頼をおき、片腕として動いている神田康範氏だ。神田氏は2013年に本田選手の誘いを受けHONDA ESTILO(本田圭佑の個人事務所)に入社。現在は同社の執行役員を務めるとともに、オーストリアリーグで買収したSVホルンの副会長兼CEOである。

 神田氏は数分話せば優秀なビジネスマンだと分かる人物、本田選手が惚れ込んだのも分かる。そんな神田氏が、2017年の新戦略の全貌を語ってくれた。本田選手と同じく、未来に対して熱い思いを秘めながら。

最も興味があるのはサッカーを通じた教育

昨年12月26日、本田選手はプノンペン市内のホテルで会見して、カンボジアリーグのシェムリアップ・アンコールFCを経営することを発表。チーム名も「ソルティーロ・アンコールFC」と改称しました。シェムリアップは世界遺産のアンコールワットで有名な場所です。本田選手にとってはオーストリア2部のSVホルンに続いて2クラブ目の所有となります。

神田:同チームは、シェムリアップというアンコールワットがあるカンボジア第二の都市を本拠地にしています。これまでその地には、プロサッカーチームが存在していませんでした。そこでシェムリアップにあったチームの経営権を取得してプロ化、地元と一緒にクラブを強くしていくというプランです。

 2部リーグからスタートするのですが、もともとのチームにはあまりお金をともなうようなバリューはないので、買収というよりは一緒に経営するので決定権を我々に譲って下さいというスタンスでした。

 本田選手が最も興味があるのは「教育」なんです。サッカーを通じての教育も含めてです。今回のカンボジアの件も、根本的にはその考えからきています。

「とりあえずやってみる」、これが一番好きな言葉

本田選手が決断した経緯を教えて下さい。

神田:昨年夏のオフに、わずかな時間ですがカンボジアを訪ねたのです。カンボジアは発展していますがまだ途上です。孤児院を訪問したのですが、そこには、しっかりとした教育を受けられない子供たちがたくさんいたのです。その実情を見て、その場で即決しました。

 「サッカーを通じてカンボジアを豊かにできる可能性があるならば、自分がやります」ということを現地のメディアにその場で話したのです。たった1日しか滞在していなかったので。その日にサッカー関係の偉い人に会い「やります」と言って決まりました。