やはりエコシステムが完備されているからだろうか?

ユニス:インフラが完備しているというのは重要だ。たとえば映画の製作は世界のどこででもできる。しかし世界的大ヒットはハリウッドから生まれる場合が圧倒的だ。ロサンゼルス圏には俳優、監督、プロデューサー、映像技術者、配給会社すべてが揃っている。こういう場所はほかにない。シリコンバレーは言ってみれば起業のハリウッドだ。スタンフォード大学に留学するのもいい考えだろう。

グーグルの創業者もそうだが、スタンフォード大学からは非常に大勢の起業家が生まれている。

ユニス:実は起業のエコシステムでもっとも重要なのは起業精神であり、起業精神を育てるためにもっとも重要なのはロールモデルの存在だ。

起業で成功した人物を身近に見ることか?

ユニス:シリコンバレーでは誰もが起業したいと考えている。少しも変わったことではない。スタンフォード大学に行けば、優秀な同級生の大半が起業を志望している。起業することが当たり前であるような社会で生活してみる以上に重要なことは存在しないだろう。

最後に日本の起業家志望の若者にアドバイスはあるだろうか?

ユニス:ひとつ付け加えるとすれば、大学教育は役に立つということだ。私はパキンスタン生まれのデトロイト育ちで、地元の大学で工学を学んだ。その後ハーバード・ビジネス・スクールでMBA(経営学修士)を取得した。エンジニアだが財務や経営の知識も得た。大学で学んだ知識は数学から経済学まで日々役立っている。起業したときも役立ったし、YCを経営する上でも役立っている。米国に留学することを勧めるが、日本の大学に進学するのでもいい。起業には広汎な知識が必要だ。体系的に知識を得るのに、大学以上に適した場所はない。教育を大切にすべきだ。

 経済規模から考えると、日本のベンチャー投資は最低でも現在の10倍以上あっていいはずだ。にもかかわらず日本のベンチャービジネスの規模がまだ小さい理由について、「足りないのは資金ではなく起業家だ」という声を、関係者から聞くことがある。リスクを取って起業する人々が増えれば、資金はそこに集まってくるはずだという。

 ユニス氏の話を聞いて、やはりあらためて起業家精神と起業を当然と考える社会の重要性を感じた。冒頭でも触れたように起業や経営の現実を肌で感じさせるような経営書に興味が集まっていることは、日本でもある種の地殻変動が始まっていることを示唆しているのかもしれない。

「起業には広汎な知識が必要だ。体系的に知識を得るのに大学以上に適した場所はない」
起業家養成スクール「Yコンビネーター」の3カ月に 密着したノンフィクション
Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール
Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール』(ランダル・ストロス(著)/滑川海彦(翻訳)/高橋信夫(翻訳)、日経BP社、1800円+税)
 伝説のハッカー、ポール・グレアム率いる起業家養成スクール「Yコンビネーター」の3カ月に密着したノンフィクション。若き起業家との熱い交流を描く!

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 本書はシリコンバレーのスタートアップ・エコシステムの核心を内側から見た貴重な記録だ。
 ──マーク・アンドリーセン、アンドリーセン・ホロウィッツ共同創業者、ネットスケープ共同創業者

 なお「YコンビネーターCOO カサー・ユニス氏が起業家、ITビジネス関係者向けに講演した内容についてTechCrunch Japanに記事「既存事業の成長は、未来に価値を生み出さない」が掲載されている。興味ある方はご覧いただきたい。