国別に見ると、イランへの進出に力を入れているのはどこでしょう。

村上:やはり核交渉に参加した欧州諸国ですね。まず挙げられるのはドイツです。2015年7月に核交渉が最終合意に至るやいなや、ガブリエル副首相兼経済・エネルギー相がイランを訪問しました。「これは早い」という印象を持ちました。

 実はイランとドイツは第二次世界大戦の時から良好な関係にあります。戦後も、イランで最初の原子力発電所となるブーシェフル原発の設計を請け負ったのは、ドイツのシーメンスでした。

 インドとの関係拡大も期待できます。インドは制裁下でも、イランとの貿易をバーター取引で継続していましたから。

サウジとの関係は当面変化せず

サウジとの関係が制裁解除を機に変化する可能性はありますか。

村上:大きな変化はないと思います。核交渉が最終合意に達した時点で、制裁が解除されることは分かっていましたから。サウジをはじめとする湾岸諸国はこの核交渉の行方に懸念を示しましたが、2015年5月にオバマ大統領がこれらの国の首脳を集めて安全保障を約束したことで一応納得したと思います。

 2014年ころまで存在していた、サウジとイランが「和解」する可能性は、今回の断交により途絶えてしまいました。しかし、制裁が解除されようとされまいと、和解は難しかったと思います。

 石油市場において、サウジとイランがビジネス面での競争を激化させることはあるでしょう。しかし、これはイランとサウジだけの争いではありません。市場から閉め出されるのはサウジでもイランでもなく、石油の生産コストや輸送コストが高い国々でしょう。ロシア、アフリカのナイジェリアやアルジェリア、南米のベネズエラなどです。

「和解」というのは宗派争いを巡る和解ですか。

村上:宗派争いというよりは、周辺地域における代理戦争です。両国は、シリアやイエメンにおいて、相手方が支援する組織によって自国の兵士が殺されていると考えています。こうした相互不信を解くための和解です。

サウジは安全保障面で自主防衛力を高める策を進める方向にあります。アラブ連盟首脳会議が2015年3月、アラブ合同軍を創設するとの声明を発表しました。背景にあるのは、核合意によってイランはウラン濃縮を継続できること。そして、シェール革命で中東の石油に対する興味を低めた米国が、この地域から退く方向にあることなどです。サウジのこの動きは強くなっていきますか。

村上:確かにそうなのですが、今のところ実態を伴うものになっていません。サウジは2015年12月、イスラム諸国による対テロ軍事同盟を発足させる「共同声明」を発表しました。この同盟は実態があるのか、ないのか、よく分からない状況です。一部の国では、自国が同軍事同盟に参加しているのか「サウジに確認する」と回答する状態。サウジと親密な関係にある湾岸諸国も「共同声明」の形式で発表されたにもかかわらず、サウジの提案を支持する」と回答する有様です。

 このように、サウジ政府の外交にはお粗末な面が見られますが、考えは巡らせていることでしょう。将来的には、イランも含めた地域の集団安全保障体制の構築を検討する意向があるのではないでしょうか。イランを封じ込めることが不可能なのは明らかですから。

イランの側はどうでしょう。レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラ、イエメンのシーア派武装組織であるフーシ派といった組織への支援を今後も続けるのでしょうか。

村上:弱めることはないと思います。ただし、まずは国内経済の立て直しが優先事項でしょう。海外組織に対する支援の中心となっている革命防衛隊はイラクなどに部隊を派遣しており、戦費が潤沢とは思えません。

米国の次期政権はより強硬に

最後にイランと米国との関係の将来についてうかがいます。制裁解除に続いて、国交回復が議題に上ることは考えられますか。

村上:難しいでしょう。ハメネイ師はこれまで「米国に死を」と言い続けてきました。国交回復を認めることは、国内向けに説明がつきません。最高指導者がハメネイ師から変わるまでイランが米国との国交回復にかじを切ることはないでしょう。ちなみにイランの最高指導者には任期のしばりがありません。亡くなるまで、その職にあり続けます。

 一方、米国側もイランとの国交回復を考えるのは難しいでしょう。オバマ大統領はイランに対して寛容すぎました。核問題で合意しましたが、イランは人権問題も抱えています。国内の少数民族であるクルド人やスンニ派のバルーチ族に対して厳しい対応をとってきました。死刑も数多く実行しています。加えて、革命防衛隊は米国のテロ組織リストに名を連ねています。

 米国の次期政権は、民主党の大統領であっても、現在よりも強硬な姿勢を取ることは確実でしょう。

再び制裁を課すような事態もあり得ますか。

村上:核問題を巡っては、イランが合意を守っている限りないでしょう。しかし、地域紛争を巡ってならばあり得ます。イランと米国の方針はイスラム国(IS)に対する姿勢以外は一致するものがありませんから。シリアのアサド政権の存続を認めるかどうか、イエメンのハディ政権を支持するかどうかなど、いずれも異にしています。米国はサウジを介してスンニ派のハディ政権を支持しています。これに対してイランは、シーア派武装組織でハディ政権と戦闘を続けるフーシ派を支援しています。