国内の反対勢力による妨害はなかったのでしょうか。

村上:大きなものはありませんでした。外交問題を審議する国家安全保障最高評議会は核合意に賛意を示しました。この会議は大統領、外相など政府の大臣級幹部のほか、国会議長、司法長官、軍の参謀総長や司令官が出席するものです。

 本来は権限のない国会も核合意を審議できるよう要求しました。議会には、革命防衛隊(注:イラン指導部の親衛隊的存在)関係者など核合意に強く反対する勢力がいます。ゆえにロウハニ大統領は審議させることに反対していましたが、最高指導者のハメネイ師が許可しました。「議会が反対したらどうなるのだろう」と懸念していましたが、結果は「賛成」でした。ハメネイ師に反対できる人はいなかったということでしょう。

「危ない国」が「普通の国」に

イランにとっては待ちに待った制裁解除です。イランが得られるメリットで最も大きいものは何でしょう。

村上:「危ない国」と見られがちだったイランが「普通の国」となり国際社会に復帰できることでしょう。例えば、シリア内戦を巡る和平交渉ではイランが出席するのを認めるかどうかで議論が生じるなど、イランとの交渉の場を設けること自体が忌避されていました。こうしたことがなくなります。2013年にイランのザリフ外相と米国のケリー国務長官が会談した時には「1979年の革命による断交以来初」といって脚光を浴びましたが、こうした会談も普通のこととなるでしょう。

 2つめは資金を調達できるようになることです。米国は「2012年度国防授権法」を成立させ、イラン中央銀行を含む同国の銀行と取引する外国金融機関と米金融機関とのドル決済を禁止しました。これは米国との取引を取るか、イランとの取引を取るか、と踏み絵を迫るもの。事実上、イランを世界の金融システムから排除する措置です。この禁止が解けることでイランは貿易を始めることができますし、経済成長につながる投資を集めることもできるようになります。

石油の貿易ができるようになると、現在日産100万バレルの産出量が、同200万バレルに増えることが予想されていますね。すぐに生産量を増やせるものでしょうか。

村上:石油に関して言うと、まずは制裁中に備蓄していた分を輸出に回すと思います。生産量を拡大する時期については、核交渉が最終合意に至ってから今日までの間にどれだけ準備を進めていたかによります。多分、懸命に進めていたことでしょう。2009年に制裁が強化される前のレベルならば比較的早く回復できるのではないでしょうか(注:同年に新たなウラン濃縮施設がみつかり、制裁が強化された)。

天然ガスが支える中東の安定

村上:イランが是が非でも力を入れるのは天然ガスの開発です。イランは埋蔵量で世界一を誇ります。しかし、今のところ開発が進んでおらず、設備も貧弱です。イランが制裁を受けている間に、カタールが開発を進めています。イランとカタールは、地下でつながっている巨大なガス田をそれぞれ北と南から掘り進めている状態です。イランはうかうかとしてはいられません。

イランは既にインドやパキスタンに天然ガスを輸出していますね。

村上:パキスタンとの間にはパイプラインを建設する予定です。イランはトルコへの輸出も期待しているでしょう。トルコがロシア軍機を撃墜して以来、トルコとロシアの関係は悪化しています(関連記事:「トルコがロシアと事を構えないこれだけの理由」)。トルコは天然ガスの多くをロシアからの輸入に依存しています。これを多角化したいと考えているでしょう。

なるほど。同様のことが日本にも言えますね。天然ガスや北方領土を巡るロシアとの交渉を有利に進めるために、イランからの天然ガス輸入を増やすことが考えられる。

ところでイランとトルコとの関係は良好なのですか。

村上:良くも悪くもない中間の状態です。ただ、経済関係を発展させる点では一致しています。

イランの貿易状況を調べていて面白いことに気付きました。トルコやアラブ首長国連邦(UAE)などイスラム教スンニ派の国が上位に並んでいるのです。

村上:イスラム教シーア派の盟主であるイランとスンニ派のUAEとの間には政治的な対立がある一方で、経済関係には深いものがあります。特に地域のハブ港として発展しているドバイにとって、イランは再輸出先の筆頭です。ドバイに行くと多くのイラン人を目にします。