トランプ氏は「本は最後まで読まない」

ほかにも取材を進めて、意外に感じた部分はありましたか。

フィッシャー:彼は、皆が思っているほど有能なビジネスマンではないということです。ブランディングに力を入れているため、日々の細かい商売には関わっておらず、企業経営については幹部らに任せています。

 そのため幹部たちは自由裁量で働いているのですが、問題が起きることもあります。例えば幹部たちが仕事の実績をトランプ氏のものとせずに自分のものだと奪おうとする場合。トランプ氏は、あくまで自分に忠誠を尽くす部下を好みます。それは新体制の人選にも表れています。

 またトランプ氏は、ビジネスでは報告書を読まず、そのことに誇りを感じている点もユニークですね。彼は部下に、「本は最後まで読まないんだ」と自慢したそうです。私たちに対しても、「大統領になっても報告書やブリーフィングは読まない」と言い張っていました。

 驚いたので、「ではどうやって、複雑な問題に対して、迅速に対処するのでしょうか」と聞くと、「アドバイザーに数十秒話してもらえば、決断力があるから適切な対処法が分かるんだ」と答えました。つまり彼は、自分の直感と決断力に最高の自信を持っている。これまでも、その直感と決断力で物事を決めてきたのでしょうね。

忠誠を尽くして助言する存在といえば、今後は長女のイバンカ氏が重要な役割を果たしそうです。

フィッシャー:実際トランプ氏は、イバンカ氏は自分の一部なのだと考えているような、子供っぽいところがあります。彼に「危機に直面した時は、誰に相談するのか」と聞いたのですが、彼は友人の名前は全く思いつかず、「親しい友達はいないから、イバンカと2人の兄弟だ」と答えました。それだけ彼は、イバンカ氏を深く頼っている。彼女を、政界やビジネスから外すという考えにも反対していて、両方に関わらせたいようです。しかし明らかに、反倫理的な利益相反に直面することになります。

言葉通りのポピュリスト、トランプ氏

トランプ氏はビジネス上はリッチなライフスタイルを演出していますが、大統領としてはどんなイメージを打ち出すのでしょう。

フィッシャー:今のところ、彼は選挙戦で主張していたイメージを維持しようとしています。だから、今も不適切なツイートも続けています。

 また、当選させてくれた国民に謝辞を述べるためのラリーにも行っています。これはオバマ大統領とは対照的な動きです。オバマ大統領は当選後、選挙戦で見せた人格を完全に失ってしまった。ラリーも行わず、国民にも話しかけず、大統領選で勝った後のオバマ氏は、完全に選挙戦の時の姿を消してしまった。そして注意深く、駆け引き上手な、如才ないリーダーに納まった。

 けれどもトランプ氏は、当選後も選挙の時の「熱狂モード」を維持しようとしている。政治的には非常に賢明な判断です。もっとも、そんな選挙モードを選挙時の公約と結びつけるには巧妙な術が求められますから、なかなか難しいかもしれません。

 実際、当選後の彼の主張は、既に選挙公約から遠ざかっているものも多い。もともと彼には、主義や価値観といったイデオロギーが全くありません。非常に実利的で、状況主義者で、人々がいるところに行くという、辞書にある通りの「ポピュリスト」そのものなのです。そのため彼自身、選挙公約をいかに政策にするのかという難しさを感じ始めていることでしょう。

 また大統領の重要な仕事の一つが「説得」です。彼がこれから、議会や国民をどう説得していくのか分かりません。当選したことで、ある程度は国民の信頼を得られたはずです。けれど彼は、これまでの大統領と比べると最低レベルの人気度と信頼度からスタートを切ることになる。

大統領就任後には混乱が予想される、と。

フィッシャー:見ての通り、混乱は既に始まっています。彼はビジネスでやってきたことを、政治でもやろうとしていますから。彼はこれまで、自分に忠実な人材ばかりではなく、敵対する人材も同時に雇ってきています。賛成者と反対者の両方を競わせ、クリエーティブなアイデアを生み出そうとしてきた。

 同じように政治でも、味方と敵を閣僚に入れて良いアイデアを得ようとしています。しかし政治とビジネスとでは全くスケールが違います。