偽名使って自分でメディアに“売りこみ”

具体的にはトランプ氏は、どんなブランド作りをしたのでしょう。

フィッシャー:彼が生み出したのは「トランプ」というゴージャスなライフスタイルブランドです。彼自身のようなリッチなプレーボーイが送っているライフスタイルを提供するブランドを生み、それをメディアで宣伝すれば消費者が飛びつくと考えた。「トランプ」の名を冠するゴルフ場やホテルに来たり、マンションを買ったりしてくれるだろう、と。

 父は中流向けの住宅を開発していましたが、彼はもっとハイレベルのライフスタイルにフォーカスした。「ライフスタイルブランド」という言葉は、近年でこそ注目されていますが、1970年代からこの切り口でマーケティングし、消費者を獲得していたという点で、彼は時代のはるか最先端を行っていたと思います。

 ブランドを売るため、トランプ氏はメディアを巧みに利用しました。彼自身、偽名で自らの宣伝をしたほどです。例えば、彼は「ジョン・バロン」や「ジョン・ミラー」という偽名を使ってニューヨークの新聞記者に電話し、「トランプが今夜スタジオ54(ニューヨークにあるクラブ)に、ホットなセレブと現れる」と情報を流してメディアを集めたこともありました。自分の派手な生活を、メディアを活用して消費者に知らせるマーケティング戦略を取ったわけです。

カメラマンが消えると女性への興味を失う?

つまり我々が目にしてきたトランプ氏の姿は、彼が生み出したビジネス人格である、と。本来のトランプ氏はどんな人物なのでしょう。

フィッシャー:トランプブランドの中の彼は、本来の姿とは異なります。

 今回取材して分かったのは、彼が一人で行動するタイプの人間だということです。彼はああ見えてとても孤立した生活を送っている。

 1970~90年代に彼と交流した女性たちに話を聞いたのですが、トランプ氏は、いったんカメラマンがいなくなると、取り巻きの女性たちには興味を示さず、そそくさと一人で自分のアパートに帰り、テレビを見ていたそうです。

 基金集めのパーティーに参加した時も、アシスタントに「すぐに家に帰るには、いくらの小切手を書けばいいんだ?」と聞いたとか。つまり、彼は、本来はあまり人々とは交わりたがらず、一貫して一人で家にいたいと思っている。

「100倍返し」を教えたある弁護士

あのアグレッシブな姿からはとても想像できません。

フィッシャー:トランプ氏のアグレッシブな姿勢に影響を与えた人物として、ロイ・コーン氏という、マッカーシズム時代に赤狩りの急先鋒に立った悪名高い弁護士がいます。彼はトランプ氏に、法律的な攻撃を受けたら、100倍で反撃すべきと教えました。そのため彼は黒人にアパートを賃貸しないという問題で司法省から訴えられた時にも、コーン氏のアドバイスに従って反訴を起こして司法省を攻撃しました。

 またコーン氏は、議論を引き起こすようなネガティブな報道でも宣伝効果があるので喜んで受け入れるようトランプ氏に教えました。トランプ氏はそれに従い、離婚話などの個人的なスキャンダルが新聞の一面を飾っても受け入れてきたのです。

 トランプ氏は表舞台ではアグレッシブですが、舞台裏でははるかに穏やかで柔軟性があります。例えば彼はよく「訴訟は解決しておらず、激しく戦っている」と表向きには言っています。けれど実際には訴訟の多くは解決しているのです。

 私がインタビューした時も、選挙戦で見せた激しい姿勢ではなく、ずっと温厚で、理性的で、人の話に耳を傾ける謙虚な対応でした。彼と交渉したことのある人たちも、「彼は楽勝で交渉しやすい相手だ。自分が譲歩したことが世間に知られなければ譲歩もしてくれる」と話していました。

 つまりトランプ氏の場合、メディアに見せる人格と、舞台裏の実際の人格の間には大きな隔たりがある。彼の会社の幹部も「トランプ氏がなぜあんな言動をするのか、動機は何なのか、疑問に思うかもしれません。けれど彼は常にショーマンだと考えれば理解できます」と言っていました。過激なパフォーマンスは、人々に刺激を与えて楽しませ、「セレブ」という虚飾に磨きをかけるために行っているのです。