昨年12月の米利上げや、年明け早々のサウジアラビアとイランの国交断絶、世界的な株価の大幅下落など、経営環境が目まぐるしく変化している。経営トップは、そうした2016年の経済・景気情勢にどのように対応しようとしているのか。食品卸最大手、三菱食品の井上彪社長に聞いた。

(聞き手は 大竹剛)

三菱食品・井上彪社長(写真:竹井俊晴)
三菱食品・井上彪社長(写真:竹井俊晴)

米国の利上げによって、2016年は2015年より円安に動くとの見方があります。円安が進むと輸入している原材料価格が上昇する可能性がありますが、国内の流通業界にはどのような影響がありそうですか。

井上:ここ1〜2年、円安による原材料費などの上昇に対して、加工食品メーカーは商品価格を値上げしたり、内容量を減らしたりするなど、様々な対策を講じてきました。単純な値上げや容量減だけではなく、メーカーの多くは品質も同時に向上させました。こうしたメーカーの努力によって、小売りでも値上げはかなり浸透してきていると思います。そのため、足元では世間で言われるほど、値上げによって消費に悪影響が及ぶという事態は起きていないのではないでしょうか。

 米国の利上げなどによってこの先、為替がどのように動くのか分かりませんが、仮に円安が進んだとしても、これまでの値上げによって、コストはかなり吸収できるのではと思っています。しかも、エネルギー価格はこれまでに大きく値下がりしてきました。いずれは、TPP(環太平洋経済連携協定)が食品メーカーの原材料の調達に影響してくるでしょう。

 これらの要因で中長期的に原材料価格がどのように動くのかを見通すのは難しいですが、2016年はさらなる値上げが相次ぐということにはならないでしょう。

2016年、消費は徐々に上向く

2017年には消費税が10%へと再度引き上げられ、食品分野では軽減税率が適用されます。2016年、流通業界は大きな変化に備える1年になるかと思いますが、どう対応しますか。

井上:食品全般への軽減税率の適用が決まりましたが、増税するかどうかという以前に、消費の状況を見れば、将来への不安から財布の紐は依然として固いという現実があります。その一方で、良質のものを少量買おうという、ささやかな贅沢志向もあります。

 増税の幅は、たかが2%、されど2%です。財布の紐が固い消費者に、いかに理解してもらうかがカギとなるでしょう。企業にとっては、軽減税率など消費増税に伴い事務コストは上昇します。いわば、小売りと卸にしわ寄せが来るわけですが、その部分のコストはある程度、消費者に転嫁せざるを得なくなると思います。

 ただし、いずれにしても円安、増税にかかわらず、全体として見れば、2016年は徐々に消費が上向いていくというトレンドは変わらないと見ています。

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