「来たよ、敗者復活組」

小田嶋:俺自身、すごく不思議な読書体験をしたんだけど、書いてある内容の三分の一ぐらいは、まったく賛同できない話なのよ。でも、最後まで面白く読めてしまう。あんなに賛同できない話が、こんなに面白いのはすごいや、って。

:僕には分からない。

小田嶋:俺だって分からないよ。あんなに頭が切れて、物を知っていて、状況が見えているのに、あの世界にいたということの不思議さ。自分がそういう世界にいたことをあけすけに語りながら、そうじゃない自分を保って、二つの人格を行き来させて書いている。

小田嶋さんも、ご自身のアル中体験については、同じように書いておられるのでは(『上を向いてアルコール』)。

:そうだね。小田嶋なら、すでに二つの人格を行き来して書いているよ(笑)。

小田嶋:あれは道を踏み外したというか。

:あれはあれで体を張っているから。美しい言い方をすると、アル中体験も、みごとにネタに昇華したじゃないか。

小田嶋:どうでしょうね。アル中体験は一長一短ですから。お酒問題のおかげで今、ここにある私、というのも一つのルートかもしれないけれど、お酒を飲まなかった側の人生というのも、絶対あったと俺は思っているから。

そうしたら、どうなっているの?

小田嶋:うーん。そう言われると困るけど。

:まあ、なって、俺ぐらいなもんだよ。だって小石川の同窓会に行くと、「来たよ、敗者復活組」とか言われてさ。

岡さんが小田嶋さんと一緒にされているんですか。

:仲間にされちゃっている。

お気の毒にと、一応言っておきましょう。

小田嶋:岡だって、高校時代の投げやりな態度とか、そうそう褒められたものではなかったからね。

:そうね。

小田嶋:一方で、30代の後半から40代の頭という、人生で一番働ける時期を働かなかったというのは、俺にとって財産みたいなものかな、という意識もある。

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