医者と役員と、あと博士号を持っているやつ

:今では、かなり昔の話になってしまったけれど、なぜかというと、広告業界は制作者であっても、わりと早く現場から離される仕組みになっていたからなんです。たとえば大看板の編集長から、新興媒体の編集長に移る、というのは、まだ現場感でつながっているよね。でも広告業界の場合は、「40代になったら床の間を背負えよ」ということが、通念みたいになっていたんだよ。

小田嶋:床の間か。

:うん、そうやって現場から離されちゃう。でも、それで役員になる保証は、制作者にはほとんどないわけですよ。あとの15年間は、ただ何となく床の間の前にいる人として終わる。

小田嶋:床の間の置物人生か。

:それで、俺、床の間人生って、どうなの? みたいな感じになってしまって、自分の行く末を考えちゃったんだよね。まあ、それでもいいやと思う人も、たくさんいたんだけど、そうでもないだろう、と考えたのが僕だった。

小田嶋:我々も60歳を超えたからあれですが、会社員の人生の末期――という言葉は不穏当かもしれないけれど、フィニッシュの時期に役員になるかならないかというのは、結構大事なことで。

:それはそうですよ。

小田嶋:役員になって、会社に残ってあと何年かやる、あるいは子会社の社長とかになって、やっぱりあと何年かやる、という方向と、役員にギリ、なれませんでした、ということの差は結構でかくて。

:でかいよ。退職金も違うしさ。

小田嶋:それって本当は紙一重の差なんだけど、その差が紙一重どころじゃなくなる。それで、小石川みたいな半端な進学校のクラス会に、俺らの年代で来るやつは、役員になった方のやつだね。

:イヤな話だけどね。

小田嶋:同窓会の準備会みたいな集まりに行ったとき、みんなが偉いもんだから、「ああ、うちの学校って結構、ああ見えて、ちょっとした学校だったんだな」と、思ったんだけど、家へ帰って落ち着いて考えたら、そういうやつしか来ないということだった(笑)。

:身もフタもないんだよ。

小田嶋:医者と役員と、あと博士号を持っているやつと、って、そういうやつしか来てないんだよ。

オダジマ先生も、そこに入っていた、と。

小田嶋:俺は別枠。そこは自覚している。

:サラリーマンというのは、50代が超つらいんですよ。

ヤナセ:いや、分かります!

お、ヤナセ教授が参入です。

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