小田嶋:そうすると、炎上商法というのが、形式上はそのまんま生きちゃう。それに少しでも対処しようと、今年の6月に、ヤフーニュースが、コメント欄で重複アカウントを排除したら、おかげで空気が変わったということがあった。

:それは、どういうことなの?

小田嶋:何かのニュースに対して、ネトウヨっぽいコメントをつけて、場を荒らす人間というのがいる。そういう人は、1人でアカウントを何個も作り、それぞれに何十回も書き込んでいるパターンが、すごく多いの。その結果、炎上か? と誤解した人が見に行き、PVが上がって、さらに拡散していく、という悪循環があるんだよね。

:ひまなんだね。

小田嶋:ヤフーニュースのコメント欄は、今までも各所から「問題あり」と非難ごうごうだった。それでも、なかなか廃止には至らないんだけど。今回も廃止はしなかったものの、複数アカウントを初めて禁止したのよ。荒れる循環はまだ残っているけれど、1つのアカウントから、1つのコメントしか書き込めなくなった。それだけで、ずいぶん空気は変わった。

:これから人生は100年時代だよ、ということが、盛んに言われているよね。僕たちは、これから先、くるくる変わる環境の中で、変わらずに生きていけるのだろうか。

小田嶋:ロンドン・ビジネススクールの先生たちによる『ライフ・シフト』ね。これから人類は超長寿時代に突入し、人生100歳時代になる、と。還暦を過ぎてから、なお本番という。

岡さん、小田嶋さんは、高校生のときからあまり変わっていないから、心配はないんじゃないですか。

ええっ、あと40年働くの?

:というか、日野原重明さんは先日105歳で、ついに天国に行かれたけれど、これから先進国は、全員が日野原さんみたいになっていくと思うんだよね。どうしたらいいんだろう。僕たち、あと40年ぐらい仕事をしないといけないのかな。

小田嶋:ちょうどこの間、平川克美さんから『65歳からのハローワーク』という企画が進行している、というお話を教えてもらったところなのよ。もしかしたら、俺、この本がちょっと必要かな、って思った(笑)。

:それ、『60歳からのハローワーク』でもいいくらいだよ。

小田嶋:だいたいさ、俺たちが会社に入ったときは55歳定年が通例で、それを60歳に伸ばすかどうかの境目だった。俺が入社したときに、会社の組合が60歳定年に向けて何かやっていたのを覚えていますよ。

:入社したときは、55歳まで働くことすら、どうかしていると思ったのに。

小田嶋:60歳まで働きたいって、それ、組合がいうことですか、という感じをすごく持った。

:だって、昔の映画に出てくる60歳とかの老け込み方って、ひどかったよね。

小田嶋:笠智衆が「麦秋」を撮っていたときは、なんと47歳とか、その辺だったそうだしね。あの映画では、いかず後家で、肩身が狭い娘役の原節子が24歳という設定。24歳で独身なだけで、娘の人生に終末感がただよっていた。

いかず後家、という死語を久々に聞きました。

:笠智衆は、その娘のお兄さんの役だけど、あの枯れ方は、今でいえば80歳、下手をすると90歳くらいのイメージだよね、日野原さん的な尺度で見ると。

小田嶋:磯野家の波平の設定も54歳でしょう。あれも驚きだよね。

:それこそ、日野原さんがそのまま演じても通用するぐらいだよね。

小田嶋:それで俺は最近、大学の方面から、人生のアガリ的な仕事を依頼されることが増えてきたの。

:何、それ?

小田嶋:大学とか、その周りから、非常勤講師みたいな形で、お声がかりが来るの。

:それは僕も同じ。今は大学が積極的に民間の人を入れていて、企業にいた人を、いきなり教授にしちゃったりしているでしょう。

小田嶋:教授ならまだしも、企業出身の人間で、年金ももらっていて、ちょっと非常勤講師で、というのが、すごく増えてきている。あれは教授として雇うと、経費がかかってたまらないけれど、企業出身で定年を超えた人間だったら、非常勤講師とか、客員何とかとして、ものすごく安い給料で起用できるわけよ。

:そうそう、その講師料というのは、ものすごく安い。

次ページ 10年後、僕らはどうなっているのだろう