小田嶋:そう。むしろ若い世代に相応の分配を、と言っているんだけど、「脱成長」という言葉が、文脈に関係なく切り取られていって、憎悪を呼んでいくわけなのですよ。

:困った時代だね。

小田嶋:議論が議論にならずに、極端な反応しか目立たなくなったのは、やっぱりインターネット以降だよね。

:いいも、悪いも、全部いっしょくたになって、わけが分からなくなっている。

小田嶋:そういえば最近、岡の業界がらみでいうと、ビールのネット広告が大炎上して、すぐ中止になったじゃないか。

ビールではなく、品目はリキュール(発泡酒)になるそうですが。

:どういうのだっけ?

小田嶋:テレビでやっている広告は、唐沢寿明が外からおうちに帰ってきて飲むと、頂に登っちゃうぐらいおいしいという、ベタなコマーシャルです。

:まあ、それは普通ですよね。

小田嶋:インターネットの方は、男が出張に行って飲みに行くと、B級グラビアアイドルみたいな女性が「ご一緒していいかしら?」みたいに現れて、いろいろチープなシーンがあって、最後に「コックーン」というセリフで落とす、安いAVの入り口みたいな動画です。

:それは、ばかだね。何でそんなものを、いま、作っているんだろう。

小田嶋:しかも、話の筋が、女性が相手の企業名を聞いて、一流企業じゃないですか~とかいって寄ってくる。その、一流企業の名前とやらで女性が引っ掛かるよ、みたいな制作者側の思想がなんとも気持ち悪くて。

:ゲスだね、企画が。

小田嶋:でも、オンエア前の試写で、「こういうフィルムが上がってきました、これをオンエアします」となったときに、「まずいんじゃないですかね」と誰もいわなかったということが、俺なんかは結構謎です。

:もちろん、普通はチェックする。

小田嶋:いろいろな段階があって、どこかで引っ掛かるはずだと思うのよ。

フロンティアでもあり、抜け道でもあり

:どこかで引っ掛かる。ただ、今の広告制作の状況でいうと、ネット広告は、テレビ広告とは別のラインになっていることが多い。そうすると広告というより事業マターになることも多く、企業側の窓口も、経験豊富な宣伝部じゃなくて、事業部とかになる。そうすると、事業部は宣伝のプロではないですからね。

小田嶋:これ、ウケるし、みたいなノリで行ってしまうんだろうか。

:しかしそれ、普通の宣伝部では絶対に通らないですよ。

小田嶋:宣伝部の人間が見れば、これはだめですよ、と即座に判断できるのか。

:もちろんだめですし、その前に、そんなものは、制作者側が宣伝部に出せないだろう(笑)。仮に宣伝部で何かの拍子に通っちゃったとしても、テレビ局の考査で弾かれる、というのが通常の流れですよ。テレビの場合はね。

小田嶋:ああ、つまり、インターネット時代になったということは、別のチャンネルができた、だけじゃなくて、関わる人も全然違う抜け道が生まれたということなんだね。

:だいたい、ネットはテレビ局による考査に当たるものなんかないでしょう。

小田嶋:ネットは、ちょっと炎上して、何だよ、これ、どういう意味? って、みんなが見に来て、カウント数が上がれば、それでいいんだ、みたいな気分がどこかにあった。そこは、DeNAで大問題になった、まとめサイトの「ウェルク」とあまり変わらない。

:しかし、情けない話だね。

小田嶋:インターネット時代は、ビジネス環境もすごい速度で変わっていて、ネットにおける「カウント数」「PV(ページビュー)」を、何かの指標にしているということ自体が、もう通用しない世の中になっていると思うんだけどね。

:テレビでは、果たして視聴率はKPI(重要業績評価指標)として有効か、という疑問がずっと言われていた。それでも、いまだに視聴率しか指標がないから、結局それで動いている。それと似た問題かもしれない。

小田嶋:PVを指標にしている限りは、ページが荒れれば荒れるほど、その値は上がっちゃう。そうするとニュースバリューじゃなくて……

:荒れているバリューだよね。バリューなんてもんじゃないけれど。

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