(聞き手:清野 由美、前回はこちら)。
小田嶋:一連の電通などにおける、「残業をやらなくても、利益は変わらなかった問題」の続きだけど、「残業をやめてみたら、大丈夫だった」ということは、全然あり得る話だと思いますね。たとえば甲子園に出るような高校野球のチームって、元旦以外は全部練習しています、みたいな話が多いでしょう。
岡:確かに、「正月は松の内が明けるまで、お休みにします」なんていう野球部は、甲子園レベルでなくたって、「とんでもない! もっと練習しろ!」というのが日本の通常の意識ですよ。

小田嶋:そんなことをいったら、誰よりもまず親から突き上げを食らっちゃうでしょう。野球に限らず、高校の部活って、「朝練します、夜練します、土日も練習します」といった空気がある。
岡:最近は、そういうやみくもなやり方は違う、という風潮も出てきてはいるけれど。
血反吐を吐かずに強くなれるんだ!
小田嶋:ほら、広島観音高校(=広島県立広島観音高等学校)のサッカー部だったっけ? 2000年代後半に、ちょっと有名になったじゃないですか。そんなにばかみたいに練習をしないで、ちゃんと休んで、生徒に練習メニューを決めさせて、インターハイで全国優勝を果たしたケースが(2006年)。

岡:根性論の対極でやってのけた。
小田嶋:日本では週7日、要するに1年のうち350日ぐらい練習するのが当たり前なんだけど、そんなものは200日で十分ですし、朝練もしません、練習メニューは生徒が決めます、といった、われわれからしたらウソみたいなやり方で、ちゃんと強くなっているという事実がある。
岡:たとえばアメリカ代表と日本代表が野球の試合をすると、高校生の場合は日本が勝つんだって。
小田嶋:その段階では日本が勝つ。でも、大学で抜かれる。ということは、練習漬けは結局、自己満足で、そんなにやる必要はないんだ、と。練習至上の夢というか、思い込みから目を覚まさないとだめなんだろうけど。
岡:先輩の練習が終わるまで、正座して待っているといった習慣は、残業とかなり似ていると思うよ。
小田嶋:広告代理店とかでは、そういう体質の人が、いまだに多いんだろう。
陸上と野球のマインドの違い
岡:ただ同じ運動部でも、僕たちが高校でやっていた陸上部では、そういう空気はなかったよね。
小田嶋:うん。なぜかというと、あれは団体スポーツじゃないから。
岡:休養も練習のうち、ということが、僕たちの時代からいわれていた。
(※僕たちの時代=1970年代。かれこれ40年前です)
小田嶋:大会前の1週間は、完全に休む。そうすると、体力が一時的に回復して、瞬発力が上がる。それを「たまりバネ」なんて呼んでいましたね。専門誌の「陸上競技マガジン」なんかには、当時から、乳酸値がどうするとこうなるとか、筋肉の何とかの組成とか、タンパク質、グリコーゲンがどうしたとか、運動生理学系の話がじゃんじゃん書いてあって、ほかのスポーツ雑誌とは全然違っていた。
岡:そう、栄養士が読むような内容だったね。
小田嶋:「とにかく根性」とかは書いてなかった。
岡:それで、陸上部は先輩・後輩の序列も、別に厳しくなかったじゃないか。
小田嶋:やっぱり団体競技じゃないからね。
岡:そこのところは大きい。負けたとしても、それは俺が恥をかくだけ、小田嶋が恥をかくだけ。だから、大会が近づいてもチームの結束とかなんとかは、関係なかった。
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