小田嶋:報道を見る限り、直属の上司は責任があるに決まっていると思うんだけどね。

:上司が個人として部下に過重な労働を命じた、という事実はなかった、と。ただし、電通の企業体質が、重苦しい労働を命じたことは確かである、という解釈で、だから会社の責任者は出てきなさい、という話になったんだと思うんですけどね。

小田嶋:何にしても、いままでの日本の労働問題からいえば、例外的な成り行きになったということはいえる。

:極めて例外的です。それともう一つ、この決着は、世論をかんがみたということが大きい。

小田嶋:古い世代、つまり経営に近い世代では、残業してナンボという意識が、まだ全然あるものね。

:どんなに安倍内閣が、日本から過重労働をなくそう、と取り組んだとしても、日本の会社の労働問題が本当にクリアされるのかについては、本質的な疑問が残る。そのあたりを払拭するために、一度、みんなの前で電通に反省させておこう、ということではありますよね。

小田嶋:司法が世論に「配慮する」傾向は、この20年ぐらい強まってきたと思う。小沢一郎の陸山会事件だって、「小沢一郎は起訴されなければいけない」という風にコトが運んだけど、あれは検察審査会が世論の空気を読んだからでしょう。

:まあ、そこからあとは、ある種の茶番に堕ちていくとは思うんだけどね。

小田嶋:そうなるんでしょうね。

残業しなくも利益が減らないなら、何のために…

:皮肉なことに、電通自体は残業にかかっていた人件費が減り、一方で、売り上げ自体はそんなに減っていないから、利益はほぼ横ばいなの。

編注:今年8月時点での売上総利益(国内)の上期実績は1803億円、前期同期は1824億円となっている(こちら)。 

小田嶋:そういう不気味な結末になっているのか。

:そういう不気味なことが起きている。ということは、つまり、そんなに働かなくたって、売り上げも、まして利益も変わらなかった、という恐ろしい事実が提示されてしまった、ということでもあるんだよ。

今までやっていたのは何だったんでしょうか?

:家族のために家にも帰らず働いた結果、家庭が壊れ、慰謝料も取られ、何だったんだ、これ……という話ですよね。

小田嶋:お前の話か?

:いやいやいや、一般論ですよ。一般論ですが、そういうことになっちゃう。それで、今回の事件のもう一つの副産物としては、クライアントが時勢を読んで、「明日の朝までね」といわなくなった、ということがあります。

小田嶋:なるほど。話を変えたね。

:いやいや、変えてないってば。それで、夕方、クライアントから電話がかかってきて、「明日の朝イチまでに」ということがなくなり、「明後日の夕方ぐらいまでで……」みたいになった。ということは、「残業しなくてもいいんだ、俺」となり、残業が減る。だって、それまでは「なぜ残業を続けたのか」の理由として、「クライアント某氏からの要請により」といわざるを得なかったわけですからね。

小田嶋:それはクライアントにとってもまずいよね。

:よね。

小田嶋:残業をやらなくても済んだのではないか問題とは、甲子園の野球のチームが、元旦以外は全部練習しています、みたいなことと底でつながると思うのよ。古い人たちの意識には、休みの日も朝から晩まで練習するから勝てるんだよね、ということが染みついているけれど、最近は、休みの日はちゃんと休んで、合理的に勝ちます、ってところが登場しているだろう。

※第2回に続きます。9月7日(木)掲載予定です。