:ナガツカは実家がお金を持っていて、当時からクラウンなんかに乗っていた。そもそも就職する必要が、あんまりなかった。最近、同窓会なんかを通して、また会うようになったんだけど、なにしろお父さんが不動産を残していて、資産家だから。

小田嶋:小トランプみたいな人です。

:でも、政界に打って出る気は、まったくない(笑)。大学を出て、いったん就職したけれど、30歳で辞めて、今、60歳を過ぎて、「父親が働いてないってのは、息子にとって変なことだと思うから、働こうかなと思っている」なんて言っている。

小田嶋:そっちの方が、よっぽど変だよ。

:いくら何でも遅すぎるよね。

 でも、ある意味理想の人生のような気もします。生活に何の不安もないその方は、今は何をしておられるのですか。

小田嶋:主たる活動は少年野球のコーチ。

 え?

小田嶋:自分の子供が野球をやっている時にコーチをやっていたんだけど、子供が卒業しても何となく残っちゃって、というよくあるパターンなんだよ。

:それでね、僕、この間、ナガツカにノックの練習を頼んだんだよ。そうしたら、それがすごくうまくて。地をはうように球がばばばばばばっと来るノック。体中に当たって、内出血だらけになった。もう大変。

小田嶋:あいつはガタイがよくて、また強い球を打つんだよ。

:すごくうまいよ、あいつのノック。

それは鍛え直さないと

 ちょっと待って。その「ノック」のシチュエーションの前後関係は何なんですか?

:子供に野球を教えたくて、久々にキャッチボールをしようとしたら、ボールが投げられなくなっていたのね、僕。それをナガツカに言ったら、「それは、鍛え直さなきゃだめだ。まずは肩を作ろう」ということになって。それからですよ、2週間に一度ぐらいナガツカと赤坂にある公園に行って、練習をしている。

 平日の白昼に、いい大人がそれをやっているんですか?

:だって、夕方は学生とかが来ちゃうからさ。

 いや、そこじゃなくて……。

:キャッチボール、ノック、それからバッティングもやっておいた方がいいということで、ナガツカがトスを上げて、僕がネットに向かって打っている。それで、ボールが向こうへ行っちゃったら、「取ってこい」と言われて、走って取りに行ってる。もう、ほとほと疲れるよ。

 ……ばか、ですか?

小田嶋:ばかなんだよ(笑)。昼間、ノックの練習をやって、夕方からマージャンに集まるんだけど、23時を過ぎるころになると、ナガツカが突然立ち上がって、足踏みを始めているから、「どうしたんだい」と聞くと、「いや、ちょっと足がつってきた」って。

:ノックする方も、足がつっちゃうぐらいつらい。

小田嶋:だから、問題は老後の過ごし方ということであって。

 ああ、老後の過ごし方。なりたい自分とかじゃなく、もはやそういう話なんですね。

(次回に続きます)

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