すごくいい言い方をすると、今、盛んに言われている「シェア」とか、「クラウド」を先取りしていたんですね。

:そうそう、先取っていたんだよ。家の破産前でいうと、僕と小田嶋は家が商売をしている関係上、サラリーマンの家よりは多少の金があった。

小田嶋:そういう意味で、騙しやすかった。だって「俺、免許取るんだ」と言って、おふくろから一体いくら引きずり出したか。「明日、何とかの実習だから2万円がいるんだよね」とか、そんなわけはないんだけど、そうやって少しずつ。

 いるいる詐欺ですね。

:僕は合宿免許が世の中に出たてのころ、その合宿に行って車の免許を取ったの。今みたいに合宿免許は、至れり尽くせりの時代じゃないから、6畳くらいのタコ部屋に、5人ぐらいが押し込まれて、そこで寝起きをするわけ。夕方からは、やることがないから、当然マージャンになるよね。人数が揃わないから、教官も誘って、「負けたら、明日合格にしろ」とか、そんなことを言いながらやっているうちに、飲んだり、食ったり、お祭りに行ったりして、金、使っちゃったんだよね。

 それで親に電話して、「オレなんだけど、今、合宿中でどうしてもお金が足りない、困ったことになった」って。

 今度は、オレオレ詐欺ですね。

:いや、これは、オレオレじゃなくて、オレなの。

小田嶋:どっちにしても詐欺ですけどね。そういえば、この間トークイベントをやった時に、ヨシダが来てくれたよ。

:うそ。ヨシダ?

小田嶋:そう。ヨシダ。

:あの、ヨシダ?

小田嶋:そう。俺とお前が何でか知らないけど、東京タワーの近くの「ヴォルガ」ってロシアレストランに行って、金がなかった時に、バイクで金を持ってきてくれたヨシダ。

ヨシダくん、あのときはありがとう

岡康道(おか・やすみち)
1956年佐賀県に生まれ東京に育つ。早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてJR東日本、サントリーなど時代を代表するキャンペーンを多く手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。99年、日本初のクリエイティブ・エージェンシーTUGBOATを設立。NTTドコモ、TOYOTA、ダイワハウス、サントリーなどのCMを手がける。ACCグランプリ、TCC最高賞ほか多数受賞。エッセイ集『アイデアの直前』、小説『夏の果て』などがある。近著は『勝率2割の仕事論』。小田嶋隆氏とは高校時代の同級生。

:あれ、返したっけ?

小田嶋:いや、たぶん……。

 返してませんね。

小田嶋:岡も俺も2000円ぐらいしか持ってなかったのに、知らない都心のレストランにふらふらっと入って、「前菜は何にしますか」「スープは何にしますか」っていうのに、いちいち反応していたら、一瞬のうちにコースの値段になっちゃったんだ。ピロシキぐらいで済ませておけばよかったのに。

:最後に「これは一体いくらなんだ?」って勘定書を見て、「ところでお前、いくら持ってる?」ってなった時に、どっちも持っていなかった。

小田嶋:巣鴨近辺の店しか行ったことがないもんだから、レストランというものがそんなに高いところだ、という知恵がないのよ。

 そのヨシダさんを呼ぶ前、食事を頼む時に、2人で話し合うという作法はなかったわけですか。

小田嶋:なかったね。岡は持っているんだろうな、と。

:僕も、小田嶋は持っているんだろうな、と。