小田嶋:大学デビューで違う自分になりたいぞ、という気持ちは誰にも絶対あるはずなんだけど、これが地方から来たやつだったら、その願いは自動的にかなうんだよ。つい、この間まで田舎の県立高校に自転車とヘルメットで通っていた、という生活が一切なくなって、ある日、一人暮らしになる。それを経験する、しないって、すごく大きい。

:東京に実家がある慶應のいいところのお坊ちゃんだったりすると、逆に家から離れられない、ということもあるよね。大学生になっても、おやじとおふくろときょうだいと一緒にいるなんて、よくできるなって思うんだけど、それを、金がなくてもやっているのが早稲田だった(笑)。早稲田は金もなくて、おやじとおふくろがいるんだよ。どんなに苦しいと思う?

小田嶋:もうさ、田舎から出てきたやつって、4月には喫茶店ぐらいできょろきょろしていたやつなんだよ。

:シナモンティーのシナモンを見て、「なんだ、この棒は」と言っている。その点僕らは、酒、たばこ、マージャンは一通り経験していたから。

 読んでいる方は、話半分に聞いてくださいね。

小田嶋:だから4月、5月なんかは絶対的優位にある。

:競馬をやって1杯飲んで帰っている、というやつもいたんだから。まあ、そこまで行くと学生じゃなくて、もはやサラリーマンだよね。

小田嶋:それが夏休みを過ぎてみると、田舎組の中で同棲しているやつがいる。

 夏をはさむと、勢力図が激変するんですね。

:それは勝てないよ、お前。

小田嶋:まるっきり勝負にならない。

 そういうこともあって、ヨットだった、ということは分かりました。

小田嶋:結局、大学1、2年のころは、俺の企画というよりも、A男に引きずり回されていた側面が強かった。ところがその後、A男は3年ぐらいになってから、ぴたっと大学に現れなくなって。どうしたんだろうと思ってA男の家に行ったら、おふくろさんが出てきて、「今、外に出られないんですよ」って。どういうことだろうと思ったら、あいつは今でいう双極性障害だったのね。

 岡は覚えているかどうか分からないけど、あいつには二つの印象があるでしょう。すごく険しい顔をして静かな時と、片袖ずつ色の違うファッションで現れたりする華やいだ時期と。教室でも最初、一つの授業で1時間に30回ぐらい質問をしていた。

:高校から大学の1、2年までは躁期だったんだね。

小田嶋:1、2年の時は素晴らしく行動力のある強引なやつだったのよ。

:A男は高校時代、勉強はまあまあできたよね。小石川みたいに、3年間クラス替えがなくて、びっちり同じメンバーだと、調子の波は何となく分かったね。

小田嶋:分かったでしょう。

:波があることを徐々に理解して、最後にみんな受け入れていた。

 多様性への理解を先取りしていたんですね。

:そう、都立高校は、多様性に富んでいた。だって、もうしょうがないもんね。

「ややおかしい」僕らの21世紀は?

小田嶋:この間、精神科医の斎藤環さんがツイートしていたのは、21世紀に入ってからは、精神障害の病気は軽症化しつつ、数が顕著に増えている、ということだった。明らかにおかしいとか、とんでもなくおかしい人って減ったんだって。その代わりといっちゃなんだけども、ややおかしい人は増加した、と。

:僕たちだって、そっちの部類に入っちゃっているよ、たぶん。

 私もそれ、ちょっと思いました。

:どっちかといえば、「やや」の方に入っていますよね。そういう清野さんだって、おかしい。

 はっ。いわれてみれば、こんな対談に10年以上も付き合っているなんて……。

:相当、おかしいよ。だから人は、ややおかしくて、社会と握手できる。ぎりぎり握手できれば、いいと思う。いや、むしろ握手ができるんだったら、おかしい方が価値が高い。

―― また、ぐぐぐいっと、自分の方に寄せる技が今年も満開です。

(次回に続きます)

日経ビジネスオンラインきっての長寿コラムとなりました「人生の諸問題」。ここから生まれた単行本は、発売順に『人生2割がちょうどいい』『ガラパゴスでいいじゃない』『いつだって僕たちは途上にいる』と、3冊になりました。同級生のおじさん2人のゆるゆるな会話と、それを容赦なくぶった切る清野女史のやりとり、ぜひ書籍でもお楽しみ下さい。
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