:僕だって入院は、そんなに嫌な思い出じゃないですよ。小田嶋も僕も入院先は外科病棟だから、深刻な病気というわけではない。入院した後は治って、出ていく。そういう順序。

小田嶋:生まれ直すみたいなところがあるわけだ。

 じゃあ、今、ここにいる小田嶋さんは生まれ変わった小田嶋さんなんですね。

小田嶋:だいたい入院中の俺は模範患者ですよ。病院って、打ち沈んでいたり、不機嫌だったりする人がいて、いろいろな暗さがあるでしょう。その中で、基本的に機嫌がよくて、「何でもいいですよー」と看護師さんに従順で、おまけに看護師さんの愚痴まで聞いているのが俺だったの。

 「人の話を聞けない病」も、治療されたんだ。

小田嶋:治療というか、適応でしょうね。ニンジンだって、俺は50年ほど食わないで生きてきたのに、食ったでしょう。ブロッコリーなんて、親の敵みたいに今まで一口も食ったことがなかったんだけど、それも食った。唯一カリフラワーだけ除いて、あらゆる食べ物と和解して、全部食ったんだよ。嫁さんがびっくりしていたもん。

 小田嶋さんのような人は、入院させるに限りますね。

小田嶋:いや、でも、これが、退院するとニンジンなんか食う気がしない。こんなもの食えるかよ、ということで、ニンジン、ブロッコリーなどいろいろな食べ物をちまちまとよけている。ただの、普通のわがままな私に戻ったわけ。

退院すればふたたび犬猿の仲に

 魔法が解けたんですね。

小田嶋:入院中は、いわゆる病院のルールをきれいに守って、それで10キロやせたわけだよ。それで家に戻ってきたら、ニンジンは食わないよとか、ブロッコリーなんかやめてくれとか、朝飯いらないよとか言いながら、ちゃんと間食はして、3キロほどリバウンドした。

 書く文章はどうでしたか。

小田嶋:書く方はそう変わらないかな。でも3カ月半も入院していると、最後の1カ月ぐらいはいろいろネタが枯渇するのね。ほら、俺はあんまり取材もしないし、文献も当たらない人でしょう。

 それ、自慢じゃないですよね。

小田嶋:いや、そういう自慢をしていたわけ。「俺は頭の中だけで書いているからさ」とか何とか言っていたんだけど、でも、さすがに何だかんだとモノを書くためには、誰かと会っているとか、どこかに出かけているとか、そういうことが必要だと分かった。

:入院中はゼロだもんね。

小田嶋:ゼロはきつい。入院中のネタ元って、まずネットの中にしかないじゃない? ネットの中から仕入れたネタを吐き出しているのって、ライターとしてすごくまずい姿だから。

:ということは、いかに入院生活に適応するも、3カ月がギリギリということだね。

小田嶋:ぎりぎり。あのまま1年いたら、みなさんの前にこうして座っていることもなかったでしょうね。はい。

(→次回に続きます。)