:いや、コンピューターはもともと、嫌だな、嫌だな、苦手だな、と思いながら接しているわけだ。だけどウォークマンは違ったじゃないか。

小田嶋:1980年の、ちょっと手前だね。

:あの時のウォークマンは、「よし、すべてを受け入れよう」と思った電気製品だった。そこから電動アシスト自転車までは、僕にとっては空白の時代だね。

小田嶋:ウォークマンは、実はでかかった。確かにあれで世界が変わったものね。

:僕は1980年に買ったことを覚えている。就職して何が欲しいかといったら、ウォークマンが欲しいと思ったの。就職した後でないと、お金がないから買えませんでしたからね。

小田嶋:俺たちが一浪して大学に入った年に「ポパイ」が創刊されて、そこから、世界がこう、ぐいっと変わっていく方向になって。あんなものができちゃってさ。

:でも、早稲田界隈で「ポパイ」を読んでいるやつは、そんなにいなかった。だってさ、学校に丹前を着て来くるやつが普通にいたからさ。

 たんぜん?

:所謂、どてらですね。

早稲田もニッポンも“発展途上国”だった

小田嶋:あと、洗面器に教科書入れて、パジャマで来ているやつとかいたじゃん。

 洗面器に教科書?

:いた。洗面器に本を入れて通っていた。すごいでしょう。

 それは、ナチュラルに着て、ナチュラルに入れているんですか?ある種のファッションではなく。

:そう、ナチュラルに、寒いから。ダウンが流行りだしたころですよ。しゃれたやつはダウンを着ていたけど、普通はスタジアムジャンパーでしょう。

小田嶋:当時、ヘビーデューティーという言い方をしていたね。

:それで、コンチネンタルなやつはトレンチコートを着ている。その中に丹前がいるんだよ。

 早稲田大学ここにあり、という感じですね。

小田嶋:夏はどうせTシャツでしょう。金持ちも貧しいやつも、格差があんまり出ないんだよ。でも冬になると、所得格差が露骨に外に表れるのよ。当時着るものは高かったですからね。

:そう、高かったよね。俺。買えなかったもん、ダウン。

小田嶋:しかも早稲田の近所に下宿して、大学に歩いて通っているやつらの金のなさというのは、これはすごいことだったからね。

:それで、そういうやつは、必ず寝癖が付いているの。なぜなら風呂なしの下宿で、銭湯にも頻繁に行けないから。

小田嶋:教科書は手で持っていると持ちにくいから、何かないかな、と思った先に洗面器があった、と。

 その方は今、何をしていらっしゃいますか

:弁護士です。

小田嶋:1970年代の日本は途上国だったんですよ。

:「1980年」というのが、すごい節目の年だったよね。その前後に『ポパイ』の創刊やユーミンの登場と人気があり、学生生活に車が欠かせなくなった。お前と湘南に行ったこともあったよね、お前の運転で。