そうすると客数に合わせて、自在にシフトが変更できる。

内藤:所定外は残業ですから、経営者がその日の忙しさを判断して何時間残業してもらうかを当日に指示できます。逆に仕事がなければ、早く切り上げてもらいます。

 例えば、3時間の残業を指示していても、2時間で仕事が終われば引き揚げてもらいます。

 8時間すべてが所定労働なら、その日に指示して早く帰ってもらうことはできません。所定労働8時間なら8時間働かせなくてはいけない決まりですから。

 所定4時間、所定外4時間とすることで、稼働状況に応じて柔軟に対応できます。

稼働対応労働時間制の考え方
稼働対応労働時間制の考え方
注:火曜、水曜が休みのサービス業を想定。1日8時間、週40時間を超えて社員を働かせる場合は「36協定」を締結。休憩時間は簡略化のため、図中に示していない
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働き方そのものを見直す契機になる

運用面を具体的に教えてください。

内藤:例えば、所定労働8時間の会社で、ある日は2時間早く帰って、次の日は10時間働くという場合。変形労働制では、平均すると1日8時間に収まりますから、残業代も割増賃金も発生しない。

 稼働対応制では労働基準法の基本通り、割増賃金を支払います。所定4時間、所定外4時間までは労働基準法に定めた1日8時間という上限に収まるので、基準賃金のみ。平日8時間を超えて働いた法定外の残業については、25%の割り増し分を加算して基準賃金の125%を支払います。

 ポイントは早く帰ってもらうと、労働時間を「貯金」できること。例えば、所定外労働を4時間ではなく、3時間で切り上げたら、その1時間分の基準賃金は貯金となり、別の日に法定外残業をしたときの基準賃金分と実質的に相殺されることになる。つまりその場合は、割り増し分25%だけを払えばいい。

 このため、経営者は残業代の削減よりも、総労働時間を減らす方向に注目するようになる。「お客様がいないから早く帰ろう。お客様が少ないから遅く出社しよう」という形で働き方そのものを見直す契機になります。

稼働対応制を導入し始めた企業の従業員はどんな反応ですか。

内藤:従業員にとって「早く帰る」「遅く出勤する」ということができるのはうれしいようです。

 変形労働制のときは、シフトが午後9時まで組んであると、社員はその時間まで職場にいることになっていて、仕事がなくても残っていた。稼働対応制では、仕事がなければ帰っていい。

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