一方、あるホテルでは、新聞の朝刊を各部屋に配る時間を1秒でも短縮しようと努力している。新聞を早く配ることは悪くないですよ。でも、それよりも先にやることがあるでしょうと言いたい。お客様が少ないときに、出勤者数を減らしたり、早く帰ってもらうようにしたりすべきなのに、ピントがずれているんです。
中小サービス業の生産性向上についてフィールド研究をしている私は、日々いろいろな会社を訪ねています。そこで驚くのは「勤務シフト表を見せてください」と頼むと、往々にして首をかしげたくなるものが出てくることです。
例えば、パート社員が自分の出勤したい日をバーッと書き込んだだけのシートを見せられることがよくあります。社長に「これ何ですか」と聞くと、「シフト表です」と悪びれることなく答える。「パートの希望を聞き、あとは正社員で何とか間を埋めています」と。いや、これでは単なるパートの出勤希望表でしょう。
あるいは、シフトが平日用と週末用の2パターンしかない会社もあります。お客様ではなく、カレンダーを見てシフトを組んでいる。社長は「客数が少ない平日は、少ない人数で対応しています」と言うが、平日でもお客様が多い日、週末でもお客様が少ない日がある。その会社は予約制なのに、客数の変化を全く反映していない。
もしかしたら、世の中の人手不足は嘘なんじゃないかと思うことがあります。
感覚的な議論から抜け出すべき
人手不足ではない!?
内藤:社会全体が人手不足だと言うから、なんとなく多くの経営者がそう思い込んでいるけれど、本当にそうなのか。例えばプレミアムフライデーで午後3時に従業員が退社した会社は、人が余っているから、早く帰ることができたとも読み取れる。
「うちは深刻な人手不足なんです」という中小企業でも、そうとは限りません。ある飲食店のマネジャーは、雇ってもすぐに辞める、人手不足だと悩んでいました。でも、1日の注文数、そして従業員数の時間帯別推移をグラフにすると、ランチと夕食の間の時間帯に、やたら人員が多いのです。
理由はすぐ分かりました。早番と遅番のシフトの重なりができているんです。こうした無駄を解消するだけでも、労働時間の削減効果は高い。このように客数のピークと従業員数のピークがかい離している例は山ほどある。感覚的な議論から抜け出さないといけないのです。
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