別の旅館の例では、浴衣の客室置きをしていません。あらかじめS・M・Lの全サイズを置いておけば、作業は楽なように思います。でも、その旅館はお客さんを出迎えてから身長を見て、体に合ったサイズの浴衣を個別に部屋に持っていくようにしています。お客さんの動きに作業を合わせることで、丁寧なおもてなしサービスを提供できるだけでなく、浴衣の在庫量が減らせ、お客さんが自分に合わないサイズの浴衣を広げたりしないので、クリーニング代も削減できます。

 浴衣を事前に部屋に配っておくのも、お客さんが到着してから部屋に届けるのも、実際の作業量は同じです。チェックインの時間帯は混み合いますから、浴衣を届けるといった他の作業を減らしたいという気持ちは分かりますが、そこを工夫することで得られる効果も大きいのです。これは時間、情報を最終工程に近づけたケースです。

「ジャスト・イン・タイム」との違いは何か

なるほど。話を聞いていると、製造業の「リードタイム」と近い考え方に思いますが。

内藤:確かにそれと共通する部分もありますが、違うところもありますよ。ものづくりの現場では短時間で作れば作るほど、つまり、リードタイムを短くすればするほど、生産効率は上がっていきます。ただ、これまで何度も繰り返し言ってきましたが、製造業では作った商品を在庫にできますが、サービス業では基本的にそれを在庫にすることができません。お客さんがいなければ、商品であるサービスを提供できないのです。

 つまりラーメン店で、10分で作っていたラーメンを5分でできるようにしたところで、仮にお客さんが15分おきにしか来ないのであれば、価値を生まない手待ち時間が5分増えるだけです。

 そもそも、サービス業の現場の客足は読み切れない。製造業は大雨が降っても製品を生産できますが、ラーメン店は大雨が降ったら客足がぱたっと途絶えます。10分で作っていたラーメンを5分で作れるようにしても、大雨には勝てない。「そんなの当たり前じゃないか。じゃあ、サービス業は作業時間の短縮を考えなくてもいいのか」と反論されるかもしれませんが、そうではありません。

 もちろん、ラーメンを10分で作るより5分で作ることができたほうが、オペレーション上はいいでしょう。特に混雑する時間帯は作業時間の短縮が大きな効果をもたらします。そのことは分かっています。

 私が言いたいのはそういうことではなく、リードタイムを短縮することは、製造業にとっては直接的な意味があるけれど、サービス業において、それだけですぐに意味があるかどうかはケース・バイ・ケースだということです。「作業時間」と「労働時間」は違うんです。

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