CDO(最高デジタル責任者)の平均在任期間はわずか2年半――。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進役として産業界で登用が広がっているCDOなどのデジタル参謀。華やかな印象だが、実は過酷な仕事だ。成果を示して社内の味方を増やし、企業風土を変える「改革」なしに、真のDXは達成できない。志半ばで会社を去る例も少なくない。そんな中、異例の7年目を迎えたLIXILの金澤祐悟CDOに、激動のデジタル参謀人生を聞いた。
■主な連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
・みずほ超えの「5社統合」 LIXILデジタル参謀の戦果(今回)
・セブン&アイ、DX部門分裂からの再出発 参謀が組織を強くする
・一挙公開 歴戦の参謀5人が明かす、DX推進に5つの鉄則
・三菱UFJ亀澤社長が激白 「本質的な発想学んだCDO時代」
・大企業社員500人への独自調査で判明 DXはなぜ人ごとか?
・ゼネラリストでもDXは進む ベネッセ橋本氏が語る社内調整力の強み
・元ヤフー社長の宮坂東京都副知事、「行政ならではのDX戦略がある」
・ニトリとベイシアG、小売りの勝ち組がDX部門の変革を急ぐわけ
・元オープンハウスの田口氏、「トップ営業マンからDXを浸透させた」
・三井住友海上・舩曵社長、DX戦略の原点は「常に最先端をいく」

「あのままプロジェクトを進めていたら、会社は潰れていただろう」。住宅設備大手LIXILの金澤祐悟CDOは、2016年の入社当時を振り返る。
住友商事出身の金澤氏は同僚だった瀬戸欣哉氏と共に工具通販大手MonotaROを立ち上げた。16年、瀬戸氏がLIXILグループ(現LIXIL)社長兼CEO(最高経営責任者)に転じ、金澤氏も誘われてCDOに着任した。
当時のLIXILは社内基幹システムを刷新する一大プロジェクト「L-One(エルワン)」の真っただ中。同社は11年にトステムやINAXなど5社が統合して誕生し、各社のシステムを統合して業務を効率化することが経営の重要課題だった。
だが、現場の社員らは、「どうせ失敗する」としらけていた。3つの銀行が統合したみずほフィナンシャルグループでシステム障害が相次いだように、システム統合は容易ではない。ましてやLIXILは5社の集合体である。
着任早々にシステム計画変更
にもかかわらず、経営陣は外部のコンサルタントに要件定義を任せ、一気にシステムと業務プロセスを刷新しようとした。受発注や部材管理で障害が起きれば、現場は混乱する。その影響で社内が守りに入り、新しい打ち手が乏しくなれば、徐々に競争力を落としていってしまう。
あまりに規模が大きく、経営陣の肝煎りでもあったため、どこからも反対の声が上がっていなかった。着任して間もない金澤氏はプロジェクトが時期尚早と判断して瀬戸氏に相談。一斉導入としていた計画を「段階的な導入」へと変更した。
時間的な猶予を得た金澤氏がまず取り組んだのが、「お客様の再定義」だった。住設業界は新規住宅着工数が増えれば、自然と売り上げが伸びる時代が長く続き、社内では最終顧客の建築主ではなく、流通業者や工務店を顧客と見なす傾向があった。しかし、00年代後半から新規着工数の減少が顕著になり、リフォーム需要を自ら開拓する必要に迫られていた。金澤氏は流通業者や工務店を「パートナー」とし、建築主を「真の顧客」と明確に位置付けた。
住設商品の発注は、オーダーメードに近い。天板の高さ、扉の大きさ、収納の段数、金具の種類──。最も複雑なキッチンだと、4000万通りもの組み合わせがある。そのため、ショールームで聞いた要望を基にした見積もりが建築主に届くのは5日後。来店時の熱が冷めた上に、想像以上の高価格に驚いた建築主から、断りの連絡が届くことも珍しくなかった。
この状況を変えるため、17年、商材の見積価格を即座に計算し、施工後の3次元画像を作成できるデジタルツールの導入を決めた。
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