NTTが次世代通信の大本命と掲げる次世代情報通信技術「IOWN(アイオン)」。インタ―ネットではできなかった「遅延時間を一定にする」ことができ、スマホの充電が1年に1回で済むようになる可能性があるという。NTTで技術戦略を担当する川添雄彦副社長にIOWNで描く未来について聞いた。

川添雄彦氏(かわぞえ・かつひこ)
川添雄彦氏(かわぞえ・かつひこ)
1961年生まれ。87年NTT入社。サービスイノベーション総合研究所長などを経て2018年取締役、20年常務執行役員、22年から現職。(写真:竹井 俊晴)

NTTが開発する次世代情報通信技術「IOWN(アイオン)」はどんなものでしょうか。

川添雄彦・NTT副社長(以下、川添氏):IOWNでやりたいのは、今まで私たちが常識的に考えていたことを1回ちゃんと見つめ直し、それを利用していくということです。

 例えば今、インターネットが通信の全てと思われている方が多くなっています。でも別にインターネットが前提でなくてもいい。私はインターネットがなかった時代も知っています。インターネットとは別のさらに良いものが出てくるかもしれない。その発想がIOWN構想につながります。

 インターネットは「TCP/IP」という同じやり方で世界をつなぐことで経済合理性を打ち出し、安くてどこでもつながる世界を実現しました。でもこれは逆に制限があります。インターネットは(通信品質を保証しない「最大限の努力」という意味の)「ベストエフォート」が前提の世界です。空いていればスピードは出ますが、みんながたくさん使い始めたら当然遅くなります。場合によっては、つながりにくくなります。

 コロナ禍で昔に比べて通信量は増え、オンライン会議を含めて自分の動画を送る時代になりました。NTTはこれまで設備投資をすることで、通信量が増えても通信が滞らないよう準備してきました。しかしどこかで限界を迎える可能性があります。そんなインターネットの限界を飛び越えるのがIOWNです。インターネットができないのであれば、別のものを用意してその中で新しいことをやる、という世界観です。

遅延時間を確定できるメリット

IOWNは「高速道路のようなもの」と話す川添氏(写真:竹井 俊晴)
IOWNは「高速道路のようなもの」と話す川添氏(写真:竹井 俊晴)

インターネットとIOWNの違いは何でしょうか。

川添氏:交通システムで例えると、インターネットが一般道路で、IOWNが高速道路のようなイメージです。一般道路だけで遠くまで行こうとしたら、途中どれだけ渋滞するか分かりません。一方の高速道路は短時間で、かつ時間が読めます。IOWNは、A地点とB地点を光回線で結ぶことで、今までのインターネットではできなかった「このスピードで確実に送る」「遅延時間を一定にする」ということを保証できるようになります。

逆にIOWNの限界はあるのでしょうか。IOWNを使って東京と大阪という別の場所にいる演奏者がピアノの連弾やオーケストラをした実証実験もされていますが、遠すぎるとIOWNとはいえ遅れが出ると聞きました。

川添氏:例えば音楽では、人間が音を聴いたときに10ミリ秒(0.01秒)位の遅延があると、違和感が生じます。光で伝送した場合、大体2000キロメートルの距離で、10ミリ秒くらいの遅延が発生します。日本国内で言えば北海道と九州くらいの距離感です。光といっても遅延時間は生まれます。そこはご容赦くださいと。

 ただしインターネットとの大きな違いは、IOWNでは「遅延時間を確定できる」という点です。例えばAI(人工知能)同士を組み合わせて動作させる場合、AIが計算して他のAIに情報を渡すとしても、時間がずれてしまっては意味がなくなるケースがあります。しかし遅延時間を確定できれば、AI同士の連携が可能になります。

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