フジテレビの番組に出演していたプロレスラーの木村花さんが2020年5月に死去した。SNS(交流サイト)での誹謗(ひぼう)中傷に悩んでいたことから、このニュースは社会的議論を呼んだ。母で元プロレスラーの響子さんが、中傷のない世界を目指して仲間たちと活動している。話を聞いた。

花さんが亡くなられてから、加害者を告訴し、損害賠償請求訴訟を起こすなど、民事・刑事の両面で法的責任を追及しています。また侮辱罪の厳罰化に向けて署名を集めるなど、誹謗中傷の根絶に向けて闘っています。活動の原動力は何ですか。
加害者はSNS(交流サイト)を使って軽い気持ちで誹謗中傷しているのかもしれませんが、被害者本人や家族など周囲の人たちだけでなく、ときには加害者自身の人生も壊れてしまいます。私は二度と同じ悲劇が起きてほしくないとの思いで活動しています。
私が告訴した加害者が刑事罰に処されたと報じられることは、誹謗中傷の抑止になると考えています。2022年に侮辱罪が厳罰化されたことも、一定のけん制になるのではと思います。
ただし誹謗中傷の線引きが難しい場合もあります。例えばSNSに命令調で「死ね」と投稿する代わりに、「死ねばいいのに」などと願望として書き込めば、法的に一発ではアウトにならないことが多いのが実情です。
そこで私が活動の拠点としているNPO法人Remember HANAでは、ルールの整備と並び、SNSのモラルの向上にも取り組んでいます。私が小中高校に出向いて、誹謗中傷について皆で考える授業などをしています。
このように最近の小中高校生であれば、SNSを使うときのモラルについて学ぶ機会を学校が設けたりしています。これに対して子供時代にSNSが普及していなかった大人の多くは、SNSの正しい使い方を教わらないまま育ちました。大人たちがモラルを身につける機会を、社会的にもっと増やしてほしいと感じています。
投稿ボタンを押す前に
残念ながら、今日も誰かがSNSで他人を中傷しているのではないでしょうか。加害者に伝えたいことはありますか。
加害者に限らず、SNSを使う全員に伝えたいことがあります。あなたが書き込もうとしているそのコメントは優しいですか?
私は正しいかどうかではなく、優しいかどうかで投稿するかを判断してほしいと思っています。誹謗中傷の加害者になってしまう人は、「私は正しく批判している」「自分の気持ちに正直なだけだ」という意識で書き込むことが少なくありません。誰かを傷つけているという自覚が全くないまま投稿してことがあります。
どうか投稿ボタンを押す前に、いったん気持ちを落ち着かせ、自分が書いたコメントを読み返してみてください。誰かを傷つける言葉になっていませんか?
誰でも加害者になり得るわけですね。
そう思います。誹謗中傷の加害者というと、社会から孤立し、SNSで他人をおとしめることでしか自分の存在意義を確認できないタイプの人をイメージするかもしれません。
しかしそのような人たちだけではありません。どのような人でも、SNSで悪口を書いてしまう可能性があります。正義感が強く、「誹謗中傷は絶対に許せない」などと言っている人こそが、無自覚に中傷に近い攻撃的なコメントを投稿している場合があります。
ストレスや疲れが、心無いことを書き込む原因になるとも聞きます。「自分は大丈夫」ではなく、「自分がいつ加害者になってもおかしくない」との意識を持つことがとても大切だと感じます。
誹謗中傷を根絶する活動をしていることで、響子さん自身も誹謗中傷を受けることがあると聞きます。
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