飲食店での迷惑行為を撮影した動画がSNS(交流サイト)で相次ぎ拡散された。“炎上”の背景を探ると、消費者の悪意が増幅していくメカニズムが見えてくる。企業はどうやって、消費者が引き起こす偶発的なリスクにあらがえばよいのだろうか。

回転ずし店「スシロー」で食事を楽しむ少年たち。一人の少年が羽目を外して、こっそりと卓上のしょうゆ容器や湯飲みをなめ回し、口に含んだ指を回転レーンのすしにこすりつけた。その様子を仲間が動画に収め、SNSに投稿。瞬く間に拡散した動画により、少年たちは社会からの批判の的となった──。
1月以降、外食店での迷惑行為が社会の一大関心事となった。話題を集めたのが「ペロペロ事件」とも呼ばれたスシローでの出来事だ。ここには様々な「悪意」が凝縮されている。
SNS時代の「悪意」とは
一つは行為自体に潜む悪意だ。無論、その行為はスシローを運営するあきんどスシローから見ればれっきとした営業妨害で、厳正な対処が必要である。一方で、少年たちには店をおとしめる悪意があったわけではない、とも推測できる。
ある小売り関連事業者のトップは「こうした悪ふざけは昔から行われてきた」と語る。以前であれば、子どもによるいたずらは店員に大目玉を食らうか、あるいは見過ごされて終わったかもしれない。だが今日、承認欲求の暴走か、はたまた「内輪ウケ」狙いなのか、行為者のグループが“悪ふざけ”の様子をSNSに投稿するケースが増えている。
SNS時代には別の悪意もはびこる。インターネットで影響力の強い投稿者が動画を見つけて転載し、内々の悪ふざけを社会に暴露するのだ。「ペロペロ事件」の場合、顔をぼかすなどの処理を施すことなく、数々の人気アカウントが「悲報」などと銘打ち動画を投稿。結果、炎上した。
こうした人気アカウントは物議を醸す動画を拡散することで耳目を集め、ネットで商品を紹介するアフィリエイト(成果報酬型)広告を通じて収入を得ようとするケースが少なくない。視聴者の「正義感」をあおってマネタイズしているのだ。
正義感と悪意は裏表の関係にある。ある危機管理コンサルタントは「少年を、あるいは2022年に景品表示法関連の問題が相次いで浮上したスシローを懲らしめたいという消費者心理が炎上の背景にある」と指摘する。未成年が引き起こした行為そのものを非難するならば、「顔出し」のまま動画を拡散する必要はない。
そもそも事件に直接関係のない消費者は社会的な制裁を下す立場にない。少年、そしてスシローへの嫌悪感が悪ふざけを「ネット私刑」として断罪する悪意に変換されたと見る。
治安悪化を感じる人が増加
02年、285万件を数えた日本の刑法犯の認知件数は年々減少を続け、21年には約57万件まで減った。しかし、22年には20年ぶりの増加に転じた。警察庁の調査では、近年は治安の悪化を感じている人が増えているとの結果も出ている。
SNSはコミュニケーションの在り方を多様化させた半面、今回の事件のように悪意の「増幅装置」として機能してしまうこともある。このように、得てして利便性向上と悪意の露見しやすさはトレードオフの関係になりがちだ。例えば、新型コロナウイルス禍の中で問題となった「持続化給付金」の不正受給。突然の収入減に苦しむ個人事業主などを迅速に救済するため、手続きを簡素化したことが不正の続出を招いた遠因とされる。
企業にとって、モノやサービスの利便性向上は競争力の強化に欠かせない。一方で、それに応じて増大する悪意につけ込まれるリスクにも対応していかなければ、ビジネスモデルが揺らぐ事態に発展しかねない。本連載「悪意の研究」では、拡散・増幅する消費者の悪意に企業が立ち向かう術(すべ)を考えていく。
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