3月20日、テック大手の米アマゾン・ドット・コムは従業員9000人を追加削減すると発表した。同社は1月までにレイオフが1万8000人規模に達すると表明しており、人員削減は合計で2万7000人規模に達する見通しだ。米グーグルの持ち株会社である米アルファベットは1月20日に全社員の6%に当たる1万2000人のレイオフを実施した。同じ週の1月18日には米マイクロソフトが、1万人規模のレイオフを発表したばかりである。昨年11月に1万1000人のレイオフを発表したFacebookやInstagramなどのSNS(交流サイト)を運営する米メタ・プラットフォームズは3月14日に追加で約1万人の人員削減を発表しており、米シリコンバレーバンク銀行の破綻も相まって、いまだシリコンバレーは冬の時代をさまよい続けている。
米国では意外な分野のスタートアップがひそかに成長している
米国では、この10年、破竹の勢いだったSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)領域のスタートアップの企業価値も急落している。スタートアップの株式管理ソリューションを提供する米カルタ(Carta)の調査によると、2022年の上半期から下半期にかけて、多くのアーリーステージ・スタートアップの資金調達の際の企業評価額が大きく下がっているという。
2022年後半から2023年にかけて唯一、積極的に人材を採用をしているのがオープンAIなど、生成AI(人工知能)系のスタートアップである。マイクロソフトやグーグルが相次いで、検索サービスに生成系AIの技術を適用すると発表したのは記憶に新しい。しかし多少の驚きを持って見られているのが、この「スタートアップ全面安」の局面で、唯一「ハードウエア」のスタートアップが、大きく企業評価額を上げていることである。
カルタの調査によると、SaaSをはじめとするほぼすべての業種で、企業価値の中間値は2割前後の下落を示している。しかしハードウエア・スタートアップの企業価値は、2022年の上半期から下半期にかけて、中間値で25%以上の伸びを示したという。
新型コロナウイルス禍においてはサプライチェーン問題などで苦しんだハードウエア・スタートアップだが、最近は、気候変動関連のスタートアップへの注目や、米商務省が527億ドル(約7兆円)の予算で半導体産業の米国回帰を狙った「CHIPS・科学法」などの動きが追い風になっていることは想像に難くない。
日本では、政府が「スタートアップ育成5か年計画」を掲げて、Web3や、大学発のディープテック企業などを後押しする方針を打ち出している。また大企業向けにはクリーンエネルギーへの転換を目指す「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」を推進している。
この連載では、米国のスタートアップ市場が今後動いていく道筋について、大手テック企業やスタートアップの動向を通じて予想し、日本企業の次の打ち手の参考として届けられればと考えている。
シリコンバレーの外に広がるスタートアップ都市
日本のスタートアップ立国戦略を推進していく上では、シリコンバレー地域以外の米国のスタートアップ都市の試みが参考になる。
シリコンバレーはもともとはシリコン=半導体産業の集積地だったが、21世紀に入り、スタートアップのエコシステム(生態系)はソフトウエア産業に特化している。
「(現在の)シリコンバレーは、ソフトウエア企業を支援するように構築されている。ハードウエアのためではない」。スタートアップ支援の老舗アクセラレーター米Yコンビネーターの元CEO(最高経営責任者)であるマイケル・シーベル氏が言うように、いまのシリコンバレーはソフトウエアやSaaS系スタートアップを立ち上げ、育てていくことにフォーカスしている。
そのため、ハードウエアやディープテックなど、ソフトウエアやSaaS以外の領域の動向を見る上では、シリコンバレーでの動向に加えて、シリコンバレーの外に広がるスタートアップ・エコシステムの動きを知っておくことが欠かせない。
実際、コロナ禍を境に、シリコンバレーからテック企業が転出するケースが増えている。注目されているのが、米テスラや米オラクルが移転した米テキサス州オースティン市と、市長自らがソーシャルメディアでスタートアップを誘致している米フロリダ州マイアミ市だろう。
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