長い年月をかけて培ってきた技術を生かして、新たな市場の開拓を目指す伝統工芸の取り組みを紹介する本コラム。第1回は陶磁器の京焼・清水焼を取り上げる。淡い色合いの花が無数に重なり合うような絵柄「花結晶」が海外のバイヤーにも高く評価され、建築・インテリア市場など新しい市場を開拓しつつある。
京都・東山、清水寺へと向かう清水坂周辺の窯元が焼いていた焼き物を総称した「清水焼」。1200年以上の歴史を持つといわれ、京都とその周辺の焼き物を指し示す「京焼」の中でも、清水焼は最も全国にその名を知られた焼き物と言える。京焼の他の産地が衰退したこともあり、現在では「京焼・清水焼」と表現することが多い。
他の伝統工芸と同じように、京焼・清水焼も市場の縮小、窯元の廃業や職人の高齢化など多くの課題を抱えている。そんな中、産地商社の熊谷聡商店(京都市)は、「花結晶」と名付けた新しい絵柄を武器に、“器”の枠を超えた新しい市場や海外市場の開拓を積極的に進めている。
釉薬の中で花が咲く


淡い色合いの花が重なり合うように絵柄を形づくっている花結晶。清水焼といえば、色鮮やかできめ細かな絵付けが有名だが、それとはまったく異なる印象を与える。結晶釉(けっしょうゆう)と呼ばれる釉薬(ゆうやく)を使った焼き物の1つで、陶磁器の表面を覆う釉薬の中にあらかじめ含ませておいた成分が、雪の結晶のように模様をつくり出している。
普通の釉薬はガラス質(非晶質)で、陶磁器に滑らかな表面をもたらす。この釉薬に酸化亜鉛を多く含ませるのがポイントだ。1200度以上の温度で焼成した後、約100度温度を下げて3~4時間維持すると、釉薬の中の酸化亜鉛が徐々に結晶化していく。きれいな結晶の花を育てるにはきめ細かな温度のコントロールが必要で、季節による外気温の違いなどでも結晶化の具合は変わってくる。
結晶化の時間が短ければ花が大きく開かず、逆に長すぎると模様が流れ落ちるように崩れてしまう。焼成中に窯の中を見ることはできないため、職人の経験や勘に頼る部分も多く、製造がとても難しい焼き物だ。結晶釉の技術自体は19世紀末に欧州で生まれ、明治時代には日本に入ってきたものの、製造の難しさから広く普及することはなかった。
創業88年、約100軒の窯元と取引がある熊谷聡商店も、本格的に取り組み始めたのは約10年前。結晶釉の焼き物を作る技術を持っていた窯元が廃業し、熊谷隆慶社長が代わりを探していたところ、祖父の代から取引のある窯元の陶あん(京都市)が手を挙げた。以来、共同で試作・開発を続け、安定的に製造するための技術を磨いてきた。
「京焼・清水焼は、文化の中心だった京都に全国の陶工が集まり、技術を競ってきた歴史がある。その蓄積が生きていると思う」(熊谷社長)。当初は5色しか出せなかった花の色も、10色以上に増やした。緑色は銅、青色はコバルトなど、釉薬に含ませる金属成分を変えることで、さまざまな発色が可能になるという。
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