一気に注目を集めた米オープンAIのChatGPT。米国や中国勢がAI(人工知能)開発競争を繰り広げる中、国内の先進企業はこの盛り上がりをどう見ているのか。対話型AIエンジンなどを手がけるPKSHA Technology(パークシャテクノロジー)代表取締役の上野山勝也氏はChatGPTの登場によって「ホワイトカラーで単純なデスクワークだけをやっていた人は食べていけなくなるかもしれないが、そうではない人の需要はむしろ高まるかもしれない」とみる。ChatGPTが世の中に与えた衝撃、そして今後どのような発展を遂げていくのかについて、話を聞いた。

ChatGPTが急激に盛り上がっている。
上野山勝也PKSHA Technology代表取締役(以下、上野山氏):GPT-3(オープンAIが2020年に発表した言語モデル)がすごいねといった話は2年前くらいからAIかいわいではあった。今回、急に盛り上がりを見せている背景にあるのは「体感できるAI」、つまりUX(ユーザーエクスペリエンス、ユーザー体験)にあるとみている。これが非常に大きなインパクトをもたらした。
人間が作成するような絵や文章を生成可能な「ジェネレーティブAI」も以前から話題には上がってはいたものの、リテラシーの高い人やエンジニアといった一部の人しか実際には体験できていなかった。「言葉」は誰しもが使えるインターフェース。このインターフェースをもってAIが体感できるという意味では、AI史史上初の出来事だと思う。
加えて、強化学習が言語モデルに適用され始めた点も大きい。「ヒューマンフィードバック」、すなわち利用者であるユーザーから「あまりいい回答じゃないね」といった評価を受けて学習し、より人間の感覚に沿った回答を出すようになっている。
まとめると、UXが良くなり、日本語で利用でき、単なる言語モデルではなく人間の感覚や嗜好に沿った形で調整されるアプリケーションになった点がChatGPTのすごさだと思っている。
ChatGPTの利用者はわずか2カ月で1億人を突破した。「とりあえず試してみよう」と、多くの人が利用している。インプットされる量、フィードバックされる量、ともに加速度的に増えている。
上野山氏:まさに、その流れが起きていて、改善速度も加速度的に上がっている。そして、米グーグル対米マイクロソフトといったテックジャイアント同士の競争に発展して、投資も加速している。この両側面で面白い動きとして捉えている。
シリコンバレーはレイオフが相次いだが、それでもAIへの投資はずっと過熱し続けていた。AI業界でも、今回のChatGPTについて冷めた見方をしている人はあまりいないのではないだろうか。精度の問題はあったとしても、やはり万人に届くインパクトは大きいためだ。
グーグルはマイクロソフトに先を越された感があるものの、そもそもChatGPTのように外に出すインセンティブがなかったのではないかと思う。従来の広告モデルが壊れてしまう可能性があるためだ。
そこに、急にマイクロソフトとオープンAIが距離を縮めながら踏み込んできた。マイクロソフトはロビイング(ロビー活動)にたけた世界でも有数の企業だ。その企業が踏み込んでくる動きについて、グーグルはあまり予測していなかったような気がする。
今後、マイクロソフトやグーグル以外の巨大プレーヤーも力を入れてくる領域だろう。米国では、既に新興企業がファウンデーションモデル(基盤モデル)ではなく、その上で動かすアプリケーションをつくる動きが広がっている。
各社の競争は今後、ますます激化していくだろう。テックジャイアントはやらざるを得ない。米アップルも競争に参加するはずだ。「Siri」が初期から搭載されていることから想像できる通り、おそらく創業者のスティーブ・ジョブズ氏が描いていたロードマップに同様の世界が含まれていたはずだからだ。
あとは半導体企業の米エヌビディアもかなり力を入れている。エヌビディアにとってはGPU(画像処理半導体)を使ってもらえれば誰でもいい。音声認識や翻訳といった様々なモデルをオープンにしながら、企業がAIを開発しやすくする環境を整えていくだろう。
SNS(交流サイト)の「フェイスブック」を運営する米メタは22年11月、科学情報の応答や文献検索に特化した巨大言語モデル「Galactica(ギャラクティカ)」を公開し、炎上の後に公開を中止した。一方、今回のChatGPTについては関連技術を採用する企業の株価が急騰するなど、極端な振れ方をしている。
上野山氏:先ほど触れたヒューマンフィードバックが重要だったという結論になる。基本的に、ウェブサイト上に載っている文章は邪悪(笑)。そのまま、その次の言葉を予測する形であれば、邪悪な回答を返すというのが普通だ。ヒューマンフィードバックを入れたことにより、ChatGPTの炎上リスクは劇的に減った。
人間のフィードバックを受けた言語モデルのため、安心して使えるようになったということだと思う。
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