SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みは今や企業にとって、「やっていて当たり前」になりつつある。そしてSDGsに取り組む多くの企業が力を入れているのが、「環境ビジネス」だ。しかしそこには、多くの企業が陥りがちな落とし穴がある。それは環境ビジネスを「コスト」と見なしてしまうことだ。それでは資金を呼び込むことも、収益を上げることもできない。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉高まり氏は、「大切なのはストーリー(物語)」と主張する。経営トップから幹部、管理職、一般社員まで力を合わせて環境ビジネスを推進するには、どのような工夫をしてストーリーを描いていけばいいのだろうか。吉高氏の講義から、ヒントを得てほしい。

 

 「コストばかりかかってもうからない」「イメージ戦略以外のメリットがなさそう」。そんなネガティブな印象が、あなたの会社をSDGsへの取り組みから遠ざけているのではないだろうか。しかし、他社がちゅうちょしている間に負の要因を克服して、近い将来の“先駆者利益総取り”に向けて着々と手を打っている企業は、確かに存在するのだ。事例と実行に移すための知恵を“SDGsのエバンジェリスト”、吉高まり氏が解説する。

 環境ビジネスはSDGsの様々なゴールを包含しています。

 まず、どんなものがあるか見ていきましょう。環境省の分類によると、環境ビジネスはA~Dの4つに分けられます。Aは環境汚染防止。つまり、既に規制するための法律があり、それを守るビジネスが多く含まれています。Bは地球温暖化、気候変動関連の分野。Cは廃棄物処理と資源有効活用で、「サーキュラーエコノミー」と言い換えることができます。そしてDは自然保全。生物多様性や資源枯渇回避に関連するものです。

 ESGとの関連で見ると、AはESGの「G(ガバナンス)」に該当します。B・C・DはE(環境)とS(社会)、つまり、「将来のビジネスの芽」と見ていいでしょう。つまり、リスクコントロールとビジネスチャンスの両方が、環境ビジネスにはあるのです。「市場の中で社会に与える負の経済性が考慮されていないがために、公害が起こった」というのは、これまでよく言われてきたことではありますが、私はここにビジネスチャンスがあると考えています。

 環境に関する課題は、資源を獲得するところから消費者に渡り廃棄するところまで、あらゆるところで発生します。自分たちの“本業”だけではなく、バリューチェーン全体に様々な課題がある。その課題にどうアプローチするか。それが重要なのです。通常ならまずはダウンサイドリスク、つまりネガティブな影響を低減させる活動が挙げられるでしょう。一方でもう1つ、ポジティブな影響を強化するアップサイドリスクも重要です。ここを押さえておかなければ将来、ビジネスチャンスを失うかもしれません。これは企業にとって、将来への先行投資となります。

「コスト」ではビジネスにならない――ではどうする?

 環境ビジネスも同じです。環境ビジネスで重要なのはストーリーです。環境分野の取り組みに対しては「コスト」という考え方をする人が多いと思いますが、それだけでは残念ながらビジネスとして資金を呼び込むことはできません。

 大切なのは、本業とのシナジーがどのように得られるかというストーリーをいかに作っていくか、です。それはESGのGではなく、Eで考える。それも、サプライチェーン全体で。1社ではカバーできない部分があるので、様々な形でコラボレーションすることが重要です。下に書いてあるいくつかのポイントは実は私自身がかつて所属していた金融機関の中で環境ビジネスを作ったときにも、意識していたわけなんですよね。

 まず、なるべくコストがかかると思われないよう、既存インフラをいかに活用するか。いろいろとネットワークを作ってそれを活用するというのもありました。あとは本業から外れないということですよね。とにかく、外部を含めたバリューチェーンを見ながら、様々なデータを使ってアピールしていく。環境ビジネスを作っていくうえでは、これが大変重要です。

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