(前回から読む→「『石塚さん、ソニーのデジカメはこのままじゃダメだ』」)

※石塚茂樹さんは2023年3月末でソニーグループを退社されました

2013年当時、ソニーのデジタルイメージング事業本部には、レンズ交換式カメラのα、コンパクトデジカメのサイバーショット、そしてハンディカムと3つの事業ユニットがあったけれど、石塚さんは「αに戦力集中」を宣言して、「5年以内にソニーのαが、レンズ交換式カメラでナンバーワンになるぞ」という目標宣言をしました。名付けて「A1プロジェクト(アルファ・ナンバーワン・プロジェクト)」。

ソニーグループ元副会長・石塚茂樹さん(以下、石塚):13年の4月でした。付言しておくと、サイバーショットも高級機のRXシリーズにリソースを集中投入していきます。

ありがとうございます。さて、今思えばレンズ交換式カメラへの戦力集中は大正解だったわけですが、当時、どうして「αに集中だ」とお考えになったのでしょうか。

このままではスマホに食われる

石塚:まず、お話しした通り僕は09年にデバイス事業に出て、電池のビジネスを通して「スマートフォンがとんでもないことになっているぞ」と知ったので、このままじゃデジカメが食われちゃうのは間違いない。いや、12年当時すでに食われ始めていた。

全世界のデジタルカメラ種類別出荷台数(2007~16)
全世界のデジタルカメラ種類別出荷台数(2007~16)
出所:カメラ映像機器工業会(CIPA)

 だから、土俵を変えたほうがいいと思った。その先としてαがあった。レンズ交換はスマホにはできないですから、差異化もできる。ポテンシャルがあるよね、と。

ポテンシャルというのは、具体的には。

石塚:プロ、ハイアマチュア向けのレンズ交換式のカメラの市場までスマホが来るのは相当先でしょう。そしてレンズ交換式カメラは一般コンシューマー向けにも伸びる期待がありました。もちろん、単価も高い。

 もともと大手2社が非常に強かったアナログの一眼レフって1000万台規模だったんですけれども、デジタル化で市場が伸びて当時で2000万台ぐらいになっていたんです。そこが、上位メーカーに独占されていたわけですよね。「市場はある。ソニーのシェアがないだけだ」と。少なくとも隣にまだ芝生の青いところがある以上、まずそこに行こう、というシンプルな発想があった。

シンプルではありますが、大胆ですよね。デジタル一眼レフ(デジイチ)は06年4月のコニカミノルタの事業継承以来、苦節7年、キヤノン、ニコンの分厚い壁に阻まれ続けてきました。10年からNEXでミラーレスの市場を開拓したとはいえ、レンズ交換式カメラの中心は依然としてデジイチだった状況で。

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