直感で「これでやります」
そうですね。製品化できるかどうかはエンジニアに確認してもらわないと。
石塚:そう。だけどモックを見た直後に、社長出席の本社トップ会議があったので、このモックを持っていって、「これでやります」と。
あっ。
石塚:実はエンジニアに何の了解も取らずに、直感的に決めたんですよ、αのミラーレスはこれだ、って。会議が終わってから、みんなに「もうやるって決めちゃったよ。ついては、10年の6月に発売だ」と。ボーナス商戦に間に合わせるんだぞって決めて、トップダウンで。そこからプロジェクトチームを組成しまして、優秀なエンジニアをがーっと1カ所に集めて、極秘のプロジェクトを始めたんです。
サイバーショットP1、T1でおなじみの、石塚さんの手口ですね(笑)。石塚さんなりに、実現できるだろうという感触はあったんですか?
石塚:裏付けはあんまりなかった。なかったんだけど、そこは何というか、またソニーのDNAの話になっちゃうんですけど、目標を明確に決めたら、後はエンジニアが何とかしちゃう、というところがあるんですよね。
浅野温子さんが宣伝に出ていた「パスポートサイズ」のハンディカムCCD-TR55、「カセットテープのケース」サイズのウォークマン、とかですね。広告イメージとしても鮮烈でした。


石塚:自分の経験上では、例のT1がそうだったんですね(第3回『エクシリムに負けるな!」ソニーの戦力結集でヒットした「T1」』参照)。T1はそもそもは、「名刺入れの中に入るサイバーショット」というコンセプトだったんですよ。具体的な目標があると分かりやすいじゃないですか。

もちろんそうですね。
石塚:こういう分かりやすい目標を提示して、「これが実現すれば、自分も欲しい。みんなが欲しいと思ってくれる。みんなが欲しいと思ったらこれは売れる」と確信すると、できるかどうかとかいうのはさておき、エンジニアというのはつくりたくなるわけですよ。と。だからそういう意味でいうと、エンジニアをその気にさせる、ハートに火を付ける的なことは、ソニーの先輩からも学んだ手法ですね。
フラットブラウン管のベガ(WEGA)。あれを作ったNさんという大先輩の役員も本に書いていますけれど、難しいプロジェクトに思わず乗っちゃう雰囲気をつくり出す。パワハラとは真逆の、その気にさせちゃう明るいマネジメント。こういうのがソニーの先輩たちは結構得意なんですよね。そういう人たちの話をいろいろ聞いていて、僕も勉強になっていたので、ある意味先輩のまねをしているだけなんですけど。だからそのT1のときもそうでしたし、NEXのときも。
例の「こだわり・わりきり・おもいきり」で説明していただくとどうですか。
石塚:「こだわり」はもちろん、ボディの極限までの小ささですね。「わりきり」は電子ビューファインダー(EVF)とストロボの内蔵を諦めました。「おもいきり」は、開発がスタートする前に、発売日6月10日を決定したことかな(笑)。
思い切ったスケジュールだったと。
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