石塚:カッコいい、とは言えなかったかな。でもこれは短期間でラフな検討をして、既存の部品を配置しただけの粗削りなモックアップ、「ラクガン」と呼ぶんですけど、本当に手で削ったものだったんですね。なので、不格好なのは当然だった。
結局、一眼レフからペンタプリズムが取れただけじゃないですか、と。
石塚:そして何だかごつごつしています、と。
なるほど。
石塚:こりゃ、現実の制約を先に置くのではなく、見た目優先で考えないとダメだな、と痛感しまして、「小さく見えて、カッコいいのを頼む」とデザイナーに依頼したんです。そうしましたら、デザイナーがモック(モックアップ、mock-up、実物大模型)を作ってきて、「石塚さん、こんなのができますよ」と。
それがソニーのミラーレス「NEX」シリーズの原型だったわけか。

石塚:デザイナーが、本人が欲しいものを実際に形にして持ってきてくれた感じですね。具体的に言うと、レンズの高さよりボディのほうが低いんですよね。
あ、確かに。
石塚:これが後のNEXのコンセプトになるんです。その後、デザイナーと話したんですけど、NEXのデザインのコンセプトって、正面から見ると、長方形に丸が付いていて、丸が長方形からはみ出ているんです。それですべてなんですね。レンズが強調されることで、ボディが極限まで小さくなったことを印象づけている。もちろんこのときはまだブラッシュアップする前だったんですけど、完成形が透けて見えるような感じの粗削りのモックアップでした。


長年こういう商品開発をやっていたので、最初の原型のときに、原石を見て、最終形がぱっと出てくる印象があって、それは「これはいける」ということだ、という確信もあったし、正直言うと半分は「いくっきゃない」というのもあったんですけど(笑)。
困ったときは王道へ
そこは格好よく決めていただいて全然OKなんですが(笑)。
石塚:ご存じの通り、08年9月にはリーマン・ショックがありました。会社の業績は急降下し、その中でもデジカメ事業は追い込まれていて、αもなかなかうまくいかないし、突破口としてこれに懸けたいと。
我々は「ヒットモデル作戦」とよく言うんですけど、「とにかく困ったときにはヒットモデルに集中しよう」というのが我々の先輩から教え込まれた考え方なんですね。ど真ん中のヒットモデルをばっと出すということがビジネス再生への一番の特効薬だと。奇をてらうんじゃなくて、とにかく「こりゃ売れる」とみんなが納得できるものに。
いろいろなものを詰め込むけれど、機能を割り切らないで、とにかく小さくつくるというのがソニーの真骨頂なんですけど、「αのミラーレスでそれをやりたいね」とみんなで議論していた。でも、最終的な商品のサイズとかデザインが全然いけてなくて苦しんで「どうにかしてくれ」とデザイナーに基本条件だけ伝えて発注したら、「こんなの作ってみたんですけど」と持ってきた。これいいじゃないか、こいつに懸けてみようと。
これまで見たことがないし、何よりカッコいいですね。
石塚:カッコいいでしょう。僕もそう思って「これはいいじゃないか」と。そう言ったのが12月の中旬で。ただ、これはモックだから、本当にこれが実現できるのかどうかは、もちろん分かりません。
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