石塚:だけどビジネスとしてはこれが売れた。市場が求めたのはこういう、個性をそれほど強くは打ち出さない、でも機能はきっちり入っているモデルだった。言い換えれば、ソニーが「これがいい」と思った個性を、市場は求めていなかった、ということですね。

「これこそソニーだ」といろいろな工夫をした。けれど、「そういう個性はいらない」というのが市場の大多数の答えだった、と。そうなっちゃうと、ビジネスはうまくいっていても閉塞感が漂うかもしれませんね……よく分かりました。

石塚:そんな中で04年の8月から私は、ソニーイーエムシーエス株式会社 (現ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ、SGMO)の執行役員常務として、愛知県の幸田テックのテックプレジデントとして働くわけです。当時ここはソニーのデジカメの製造拠点で、今も交換レンズやキーデバイスなどを製造しています。

市販製品の事業マネジメントから、製造の統括に移られた。お仕事ががらっと変わりましたね。

石塚:ええ。この時期は振り返ってみると、時間の余裕ができたこともあって様々なことを考えましたね。本も読んだし、人の話も聞いた。自分の転機だったと思います。

そんなにですか?

石塚:「幸田(に行く)前の石塚」と「幸田後の石塚」くらい変わったんじゃないかな(笑)。

「型番が変わる」くらいだったと。45歳、ビジネスパーソンとしてはいったん区切りをつけるいいタイミングだったのかもしれませんね。それではこの期間は、デジカメの開発についてはもうノータッチだったのですか?

ソニー、コニカミノルタの事業を継承

石塚:そうです。ただ、製品を製造する現場を見るわけですから、商品情報は入ってきますし、ときどき元部下が遊びに来て、愚痴をこぼしていったりしました(笑)。それはともかく、私がデジカメの事業マネジメントから離れている間に、ソニーはコニカミノルタのカメラ事業を継承するんです。

 こちらが引き継いだ側なんですけれども、本拠地はコニカミノルタがある大阪で、かつ、新大阪の駅のそばにオフィスを借りて、事業部をスタートしたんですね。後にソニー副社長になるKさんがこちらの人間を、100人くらいかな、引き連れて新大阪にいって「(一眼レフを)教えてください」、というかたちで始まっています。

いよいよ、ソニーの「α」のストーリーが始まるわけですね。といっても、当時のαは「デジタル一眼レフ」で、今のソニーのαシリーズの「ミラーレス」ではない。

石塚:そうですね。

カメラにご興味がない読者の方には、ちょっと説明が必要ですね。以下の図と説明をご覧ください。

デジタル一眼レフ
デジタル一眼レフ
一眼レフは反射鏡(ミラー、レフレックス)でレンズから来た光を光学ファインダーに送り、シャッターを切るとミラーが跳ね上がってイメージセンサーに光が届く。ミラーとその制御のメカニズム、光学ファインダー用の大きなプリズムなどが必要でサイズが大きく、重くなる。背面に液晶ディスプレイを備えているが、これは基本的には撮影した画像を確認するためのもの。液晶ディスプレイをファインダーとして使う(ライブビュー)こともできるが、その場合は光学ファインダーが使えない(ライブビュー用のイメージセンサーを別に搭載して、併用を可能にしたモデルも存在した)(イラスト:藤井龍二、以下同)
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ミラーレスは文字通り「ミラー」を持たず、レンズからの光が直接イメージセンサーに届き、その信号を液晶ディスプレイや電子ファインダー(EVF=electoronic view finder)に表示する。従来のコンパクトデジカメと基本的には同じだが、レンズ交換が可能なことと、より大型のイメージセンサーを搭載することで、性能を向上させている
ミラーレスは文字通り「ミラー」を持たず、レンズからの光が直接イメージセンサーに届き、その信号を液晶ディスプレイや電子ファインダー(EVF=electoronic view finder)に表示する。従来のコンパクトデジカメと基本的には同じだが、レンズ交換が可能なことと、より大型のイメージセンサーを搭載することで、性能を向上させている
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簡単に整理しておくと、デジタルカメラには
・レンズの交換ができない「一体型カメラ」と、「レンズ交換式カメラ」
があり
・「レンズ交換式カメラ」には「デジタル一眼レフ」と「ミラーレス」(「ミラーレス一眼」と表記することも)がある
と、ご理解ください

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